元湯 環翠楼 箱根塔ノ沢温泉
歴史の息遣いを感じる登録有形文化財の宿
素晴らしい日本建築や大正風呂にため息!
箱根塔ノ沢は元湯 環翠楼(もとゆ かんすいろう)、一の湯本館、福住楼と登録有形文化財に指定されている宿があり、昔ながらの風情が残っている温泉地です。
その中でも元湯 環翠楼(以下環翠楼と略)の創業は約400年前。
慶長19年(1614年)箱根塔ノ沢に湯治場として開湯し、当時の名は「元湯」と言い、水戸光圀も宿泊したと記録に残っているそうです。
古くから政府要人や文化人たちに愛され、明治23年(1890年)には伊藤博文が逗留し、「環翠楼」と命名しました。
館内に一歩踏み入れると、空気が一瞬にして変わるのを感じました。ピーンと張り詰めていて、それでいて人を包み込むような…。歴史のある宿ならではの凛とした佇まいです。
よく磨き込まれた館内は、幾つもの時代を越えてきた息遣いが感じられます。
環翠楼の現在の建物は明治時代に建て直され、大正8年(1919年)に増改築されたもの。その4年後の関東大震災が起きた際にもびくともしなかったというのが、当時の職人さんの自慢だったといいます。
巨大な明治時代の金庫は現役。部屋内に金庫を設けていないため、お客さまの貴重品をこの金庫で預かっているそうです。
また、環翠楼は静寛院宮 和宮さまが病気療養のために訪れ、身罷った宿としても知られています。
館内の素晴らしい造りや調度品などに目を奪われ、なかなか前に進めません。どこを撮影しても絵になります。古い日本の木造建築や美術品などが好きな方なら、たまらない世界でしょう。
洗面所もレトロな雰囲気で、床には今ではなかなかお目にかかれないモザイクタイルが使われています。ビールの名前の入った鏡や、凝った造りの天井(格子天井)も印象的。
レトロな大正風呂と川沿いの絶景露天風呂
環翠楼の温泉といえば、有名なのは大正風呂と早川沿いの露天風呂。しかも源泉かけ流しです。源泉は3本の混合泉(湯本37・50・110号)を使用し、源泉の温度は46.8℃。「湯番」と言われる温泉管理のスペシャリストの方が毎日の気候に合わせて源泉の温度を調整されているそうです。
大正風呂は館内1階にあり、「御入浴場」と書かれた入口も趣きがあり、期待が高まります。
大正風呂の入口の廊下には白鳥や菖蒲をモチーフにしたステンドグラスが施され、片側が鏡張りになっています。
大正風呂はレトロなモザイクタイルが印象的なお風呂。大正時代に輸入されたタイルを浴槽と床に使っています。壁面には岩を使用し独特な雰囲気。亀や人の石像等もひっそり佇む凝った造りです。
浴槽は2つあり、まずは丸形の浴槽に入ってみました。若干深めで無色透明のお湯にすっぽり包まれ、そのやわらかさを堪能しました。泉質はpH8.9のアルカリ性単純温泉。肌にやさしい良いお湯です。
大正風呂が源泉に一番近く、浴槽の中と湯口から源泉を注いでいます。
ここで楽しめるのは箱根七湯の一つ、塔ノ沢温泉。塔ノ沢で温泉が発見されたのは慶長9年(1604年)で、塔ノ沢温泉はその効能などで人気の高い湯治場でした。塔ノ沢温泉が発見された10年後に元湯(現在の環翠楼)が開湯したわけですから、歴史の重みを感じます。
大正風呂のもう一つの浴槽は扇形。壁一面が岩になっており、洞窟風の異空間を楽しめます。岩の中に打たせ湯もあり、面白い造りだと思いました。
こちらは大正風呂の女湯です。浴槽と床のモザイクタイルや壁面が男湯とは異なり、モダンな雰囲気。白を基調とした浴室で、奥の浴槽の上のオレンジ色の壁が印象的です。こうした大正ロマンあふれるお風呂に入れるのは本当に素晴らしいですね!
風情のある湯上り処からは、中庭の池を見渡すことができます。
続いて離れにある早川沿いの露天風呂へ。
山肌近くの野趣あふれる小道を通り抜けたところに、露天風呂の湯屋がありました。
露天風呂は男女別になっており、男湯は「翠雲(すいうん)の湯」。早川渓谷の渓流と箱根の自然の美しさを堪能できる絶景露天風呂です。
開放的な浴槽からは渓流を眺めることができ、その川音に癒されます。
女湯の「静寛(せいかん)の湯」は木の温もりを大切にした絶景露天風呂。
浴槽の真下に川が流れていて、ダイナミックな眺めが楽しめます。
露天風呂は22:00〜翌朝4:00までは貸切利用が可能です。特に予約制ではなく空いていれば自由に使うことができ、利用時間は1回につき30分程度が目安。その際は「使用中」の札を下げて戸の鍵をしめて利用できます。
ほかには、3階に新設された貸切専用風呂「末広の湯」や、天然鉱石(北海道産のブラックシリカ)を用いたヒーリングストーンスパ(岩盤浴 有料)があります。
環翠楼ではレトロな大正風呂から絶景露天風呂、岩盤浴までさまざまなお風呂が堪能できますね。
また、露天風呂から建物に戻る時に見た外観がとても素敵でした。
銘木博物館とも言える大広間や客室
環翠楼では大黒柱を使用せず、小柱・梁・筋かいなどを組み合わせる「総もたせ」が館内に独特の造りを見せています。
4階には銘木を使用した格調高い3つの大広間があり、実に見事。名画や名書などがさりげなく飾られています。
「神代閣」は1000年以上箱根の山中にうもれていた神代杉を使用した大広間。仙田菱畝画伯による花鳥をモチーフにした襖絵が豪奢な雰囲気を醸し出しています。床の間には唐獅子、窓辺の観音像などの古美術品が飾られ、印象的な折り上げ天井も見どころの一つ。
「万象閣」は神大杉と欅を使用した、舞台付きの大広間。鏡枝の松が杉戸に描かれています。天井の折り上げや書画なども要チェック。
「蓬仙閣」は杉・桜・桐などの銘木を使用した大広間。天井には神代杉を使用しており、クラシカルな照明器具が印象的。また、古い電話器や昔使われていた籠など、懐かしい品々が展示されています。
続いてご紹介するのが環翠楼の客室です。
環翠楼の客室(全22室)は同じ間取りはほとんどなく、銘木をふんだんに使った古式スタイルの部屋からかけ流しの露天風呂付き客室まで、職人のこだわりが光ります。昔ながらの数寄屋造りとなっており、古い日本建築の素晴らしさを堪能できます。
その中でも渓流側の客室「早川」は環翠楼の代表的な客室とも言え、古い日本建築の美しさと清々しい眺めが楽しめます。早川沿いと中庭の池に面して広縁が備わり、本間15畳を囲むようになっています。天井の造りや建具などにも職人の技が駆使され感動的。
また、環翠楼で最も古い部屋は31号室。大正時代の趣きをほとんどそのまま残したこの部屋は根強い人気があるそうです。洗面・トイレはありませんが、古き良き時代を満喫するにはうってつけでしょう。こちらの部屋も早川側に面し、本間が24畳と広いので12人までの宿泊が可能です。
環翠楼にはまだまだ見どころがたくさん。館内全体がミュージアムのようです。今も現役の料理用エレベーターや炊事場も印象的でした。
政府要人や文豪に愛され、あの篤姫も逗留していたという環翠楼。歴史を刻んだノスタルジーを満喫できる宿に、のんびり滞在してみてはいかがでしょうか。
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