富士見館 伊豆・畑毛温泉(はたけおんせん)
すでに10回以上訪れている、温泉部長お気に入りのぬる湯
常連客が足繁く通う、明治43年創業の湯宿
井伊湯種(いいゆだね)のお気に入りの畑毛温泉(はたけおんせん)は、伊豆半島の北側に位置し、昭和37年(1962年)に環境省から指定された国民保養温泉地です。
畑毛温泉の歴史は古く、源頼朝が軍馬の療養を行なったという言い伝えや江戸時代には湯治が行なわれたという記録が残っているそうです。近代になって与謝野晶子や若山牧水などの文人が訪れたことでも知られています。
この日は車で伊豆箱根鉄道駿豆線の大場(だいば)駅方面から向かい、国道136号線をまっすぐ韮山方面へ。「歓迎・畑毛温泉」の看板を過ぎるとまもなく左手に富士見館(ふじみかん)の看板が見えます。
富士見館は建物の前に広々とした駐車場を用意しています。
富士見館は明治43年創業の湯宿。ぬる湯を堪能することができ、こちらはもう何回通ったかわからないほど湯種が好きな宿です。
建物の右側に見えるのは伊豆八景に数えられる大仙山。この日は見えませんでしたが、富士山も眺められます。
入口横の石碑には富士見館の歴史が刻まれていました。
富士見館では朝7時から夜20時まで日帰り入浴の営業をしているため、とても利用しやすいのです。
湯種は早朝利用が多く、ぬる湯の朝風呂を楽しんでいます。ちなみに夕方17時〜18時は点検のため、入浴できません。
日帰り入浴料金は大人1人500円で2時間利用できます。タオルはフロントで1枚200円で販売。
昭和の香りが漂う館内は湯種好み。いつものように気さくな女将さんがフロントで朗らかに出迎えてくれました。
朝9時に伺ったのですが、湯種が着いたときにはすでに何人もの常連客が訪れており、帰っていく方もいらっしゃいました。
ロビーをはじめ、館内のいたるところには三代目館主の高橋松璋さんの名言が貼られ、いつ見てもユニークです。
温度の異なる3つの浴槽で楽しむ「長生きの湯」
富士見館には男女別の浴室があり、手前が男湯、奥が女湯です。それぞれののれんには「長生きの湯」と書かれています。
スッキリとした印象の脱衣所には鍵付きロッカーが備えられています。つるし雛が飾られ、和やかな雰囲気。
レトロな「伊豆畑毛温泉」の解説は風情があります。「銀粒の遊離炭酸が皮膚を刺激して血行を旺盛ならしむ」という文言が気になりました。
窓が大きく明るい浴室は高温(40℃~41℃位)、中温(37℃~38℃位)、低温(32℃~34℃位)と温度の異なる3種類の浴槽があり、バイブラ方式、ジェット噴流、超音波による気泡が全身を心地よく包み込みます。
畑毛温泉の特色は、この地を訪れた若山牧水が「長湯して飽かぬこの湯のぬるき湯にひたりて安きこころなりけり」と詠んでいるように、ぬる湯でゆったりと長湯ができること。
利用している源泉は「韮山温泉土地3号泉 畑毛2号」。泉質はアルカリ性の単純温泉で、源泉の温度は30℃位です。1分間に609ℓほど湧出している源泉は畑毛温泉の旅館や施設で利用されています。
低温の浴槽が1番広く、ジェット噴流付きであることから富士見館に訪れるたびに、ここの浴槽に長時間浸かっています。初めはヒンヤリとした浴感ですが、やがてジワジワと体の芯から温まっていく感覚がたまりません。しかも気泡が腰や肩など、体をマッサージしてくれるから快感です。
中温の浴槽からは窓越しに外の景色を眺めるのが楽しみです。
見えるのは懐かしい雰囲気の丸い郵便ポスト。いつ見ても風情があります。
1番左側の浴槽が高温槽です。低温から中温を楽しみ、高温槽は上がり湯に使うと良いですね。
1度ゆっくり入浴してみれば、3段階の温度が楽しめる気泡風呂で血液循環がよくなるため、「長生きの湯」と呼ばれているのも納得できると思います。
昔からの常連さんが多いのが富士見館の特色ですが、最近では若い人が増えてきているそうです。「日頃の生活で疲れている人が多いのではないでしょうか。数か月に1度のペースで通っている若い人はお風呂の中で本を読んだりしてゆっくり浸かっていますね」と女将さん。
毎週訪れている県外からのご夫婦は女将さんに「毎週来ないと体が持たない」という話をしていたそう。
また、館内に掲げられた「日帰り入浴の方へのお願い」が印象的でした。かつては石鹸持参で「洗髪はなるべく避ける」としていたことがわかります。
ケロリン桶が置かれた洗い場にはフォーム(泡)タイプのボティーソープとリンスインシャンプーが用意され、現在は日帰り入浴利用者も利用できます。
伊豆の「かかりつけ湯」に選定されています
また、富士見館は伊豆の「かかりつけ湯」に選ばれています。「かかりつけ湯」とは、静岡の外郭団体、ファルマバレーセンターが選定した健康増進や癒しのための伊豆の温泉宿泊施設のこと。お湯へのこだわり(良質の温泉)やおもてなしなどが選定の基準になるそうです。富士見館は湯種が大好きな宿なので、その良さが客観的に認められていてうれしく思いました。
休憩室利用でプチ湯治!
休憩室は日帰り入浴の休憩のお客さまがくつろげるよう2間(「玄岳の間」と「富士の間」)を開放しています。畳の上にテーブルと座布団が置いてあるだけですが、お客さまが自由に動かして過ごしやすいように使われているとのこと。席も十分にあり、比較的空いているようですので、ゆったり過ごすのには良いかもしれません。日帰り入浴で休憩室を利用する場合は入浴料に追加で500円かかります。利用可能な時間は朝9時~15時まで。休憩室への持ち込みは自由。食事は出前を取ることもできます。
宿泊してゆっくり「ぬる湯」を楽しみたい!
富士見館のチェックインは12時〜17時、チェックアウトは朝10時ですので、最大22時間の滞在ができます。客室数は14部屋。食事は部屋出しが基本で、3人以上は個室食事処の場合もあるそうです。1階の客室は桜や楓などの木の名前が付いており、2階の客室は琴平、笹原、大仙、白山など、地元の地名を付けています。
宿の入口は南側を向いているので建物越しに富士山を見ることができます。もともとは現在駐車場になっている場所に建物が建っていたため、「富士山がキレイに見える」ことから富士見館という名前を付けたそうです。今は建て替えてしまい、富士山が見える客室は2階の富士見という部屋のみ。
「普段から見慣れているため私たちにはわからないのですが、県外から来た方は富士山が見えると本当にうれしそうです」と女将さん。
確かに旅先で富士山が見えると何か得した気分というか、テンションが高くなりますね。湯種もその1人。この日は早朝からの大雨で富士山を拝めず残念でした。
階段を2階へ上る踊り場から見えるのが大仙山。夜に見ると月がちょうど山の上を通っていくことから月と山がきれいに見えるそうです。
2階の客室「琴平」に案内していただきました。
客室「琴平」は10畳の和室で広縁が付いています。昭和の時代にタイムスリップしたような雰囲気がたまりません。鏡台をはじめ、調度品もレトロですが、冷暖房はもちろん、冷蔵庫やテレビ、温水洗浄トイレなどが備えられています。湯治の連泊はもちろん、伊豆観光の拠点としても利用しやすいと思いました。
これまで湯種は日帰り入浴のみの利用で富士見館に宿泊したことがありません。今回、初めて客室を拝見できて感激です。次回はぜひ、家族や友人と泊まりで訪れて、大好きなぬる湯をじっくり堪能したいと思いました。
館内の至るところに富士見館のぬくもり
湯種は温泉取材でさまざまな湯宿を訪れていますが、その宿だけが持つ雰囲気やぬくもりのようなものを強く感じることがあります。歴史のある宿はそれがより顕著で、湯種は昭和の香りや古いものが大好きなこともありますが、富士見館に訪れるたびにホッとするものを感じます。今回は初めて宿の歴史などもお伺いしました。
富士見館の創業は明治43年。ロビーに置かれた古い鞄は初代館主高橋寅吉さんが愛用していたもの。当時は流行にのってアメリカに行くことが増え、宿の切り盛りは女将さんがしっかりやっていたそうです。
二代目館主は地元の名士として活躍し、宿は女将さんがしっかり守っていたそうです。
三代目館主は館内の至るところに名言を残している高橋松璋さん。名物館主と呼ばれ、「普段から大きな声で元気に話をしていたというより、ロビーでお客さまと2人きりで相談するように話をしていたこと」を女将さんは覚えているそうです。性格としてはハッキリと物を言う人だったといい、たくさんの名言の中でも、女将さんが特に印象に残っているのは「どんなに相手が悪くても必ず逃げ道は作ってやってください!」という言葉。
湯種も心に刺さるというか、実に感慨深い言葉だと思います。
心がけているのはお客さまのお話をよく聞くこと
現在の女将さんが心がけていることは「いろいろなお客さまとお会いするため、話をよく聞くことを心がけていて、お客さまに寄り添うようにしている」ということ。
ネットの口コミで「お客さまを名前で呼んでくれる」というのを見たので、それについて質問すると、
「お客さまのお名前を覚えるのはどんなサービスでも基本だと思っています。ネットでも電話でもご予約をいただいたら、必ずお客さまにご確認の連絡を入れるようにしています。お話ができなくても留守番電話に残しています。ご確認のお電話からお客さまとの人間関係が始まると考えています」(女将さん)
湯種もイチオシ! 女将さんの人柄
女将さんはお話をしていて、とても気持ちの良い人でした。常連の方に愛されているのがわかり、話の途中でも帰る際には必ず声をかけ、健康に気づかっている姿が印象的でした。
初めは5軒で始まった畑毛温泉の宿もピークの10軒から現在は4軒になっており、畑毛温泉全体のことを気づかっていました。廊下には近所の温泉施設として連絡先も載せてあり、周りの施設もあわせて盛り上げていこうという気持ちが感じられました。
畑毛温泉の源泉湧出地に感動
取材の最後に湯種が向かったのは富士見館で利用している源泉「韮山温泉土地3号泉 畑毛2号」の湧出地。宿から少し離れたところにありました。ここから畑毛温泉の施設や旅館に供給されているそうです。今回、初めて畑毛温泉の源泉地を見ることができてうれしく思いました。湯種はこうした源泉の湧出地にはとても興味があります。
アクセスをチェック! 意外と便利
富士見館へのアクセスは車の場合、東名高速・沼津インターチェンジより国道1号線、国道136号線経由で所要時間は30分位です。
「歓迎・畑毛温泉」の看板が見えると、まもなく左手に「富士見館」の看板が見えます。
建物前の駐車場のほか、西側の駐車場も利用できます。
電車でのアクセスは、JR東海道本線函南駅からタクシーで約10分。函南駅は東京方面からですと、熱海駅の一つ先です。バスは函南駅(かんなみえき)から畑毛温泉行きに乗り、「畑毛温泉入口」バス停で下車すると、目の前が富士見館です。所要時間約25分。
また、三島駅〜修善寺駅を結ぶ伊豆箱根鉄道駿豆線を使う場合、最寄り駅は「大場駅(だいばえき)」です。
大場駅前のタクシー乗り場(乗り場は2つあります)にタクシーが停車していない場合は、タクシー会社に電話をすると配車してくれます。所要時間は約8分。
バス利用は大場駅前から畑毛温泉行きに乗り、「畑毛温泉入口」バス停下車。所要時間約15分。
ぜひ富士見館で、ぬる湯をゆっくりと堪能してください。
より大きな地図で 温泉グルメ探訪 を表示