誠山 伊豆畑毛温泉
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老舗旅館の「ぬる湯の名湯」を継承し、
時代に合った湯治を楽しめる宿
2018年2月、高橋別館を改修してオープン
ぬる湯好きの井伊湯種(いいゆだね)がずっと通っている畑毛温泉(はたけおんせん)。畑毛温泉は400年以上の歴史を持ち、1962年に静岡県で初めて環境省から「国民保養温泉地」に認定された温泉地でもあります。古くから「ぬる湯の名湯」を堪能できる素晴らしい温泉地なのですが、全盛期20軒ほどあった温泉宿も減少し、伊豆長岡温泉の近くにありながら知る人ぞ知るという存在です。
そんな畑毛温泉に2018年2月、休館していた老舗旅館「高橋別館」をリニューアルして「誠山(せいざん)」がオープンしました。
このニュースを知った時はうれしくて居ても立ってもいられないほどでした。新設の露天風呂の完成を待ちながら、誠山のオープンから2か月後にようやく訪れることができました。
出迎えてくれたのは女将ではなくて、男将(おかみ)の山本龍太郎さん。笑顔が素敵なイケメンです。高橋別館を引き継いだ山本さんは、もともと東京・飯田橋で飲食店を経営していましたが、「畑毛温泉を後世に残したい」という思いから旅館を始めることになったそうです。山本さんから4代前の龍作氏が畑毛温泉に別荘を持っていたことから親しみがあったこと、ご両親が西伊豆で旅館業を営んでいたことも誠山を始めるきっかけになりました。また、畑毛温泉には歓楽街がなく、静かに過ごせることも魅力だったといいます。
高橋別館の面影を残しながら、時代に合わせて1階の客室をすべて洋室に変更するなど、大幅なリニューアルを行ないました。ロビーには樹齢2000年を超える屋久杉のテーブルが置かれ、館内で時を刻んでいるのは高橋別館のランドマーク的存在だった古時計です。
3種類の温度が楽しめる内湯と
4月に新設された露天風呂
誠山のルーツは畑毛温泉旅館の先駆けとして1888年(明治21年)開業した「琴景舎(きんけいしゃ)」。多くの人が湯治に訪れ、総合人間学モラロジー(道徳科学)を創建した法学博士で温泉博士とも呼ばれた廣池千九郎(ひろいけちくろう)もその1人です。その後、高橋館に改名しました。昭和39年に別棟を「高橋別館」として独立、現在に至ります。
誠山が高橋別館を継承し、畑毛温泉のぬる湯の名湯を堪能できることは、うれしくてたまりません。
それではお風呂をレポートしますね!
温泉大浴場は男女別になっていて、入口の壁紙が印象的です。思わずウキウキしてしまうようなデザインですね。
脱衣所は鍵付きロッカーが備えられています。
内湯は3つの湯船があり、それぞれ異なる温度が楽しめるようになっています。左の一番広い湯船には畑毛温泉の源泉そのものが注がれ30℃前後。真ん中の湯船が35℃前後、右の湯船が41℃前後に設定されています。湯船にはそれぞれの湯温や湯の説明などが表示されているのが良いですね。
その説明によると、源泉30℃前後は長く浸かるとぽかぽかが長く続き、源泉加温35℃前後は体温よりもぬるく、のぼせを防ぎます。
2つの湯温の異なるぬる湯が楽しめるので、ぬる湯好きにはたまりません。源泉加温41℃前後はほどよい湯温でぬる湯との交互浴がおすすめ。
露天風呂は2018年4月に新設されたもの。L字型の湯船とスタイリッシュなタイルが配置され、洒落た雰囲気です。湯種がよく訪れる畑毛温泉の温泉宿には露天風呂がありませんので、とても新鮮な気分を味わうことができました。取材当日(4月)の湯温は41℃位で、夏は35℃位のぬる湯を楽しめるそうです。夏の露天風呂でぬる湯! これもまた気持ちが良さそうです。
湯上がり後は休憩スペースでリラックス。体がポカポカして、思わず寝落ちしてしまいそうです。
また、事前予約制の個室風呂もあり、宿泊者は無料で利用できます。
テレビがある客室は1室のみ
静けさや読書を楽しんでほしい
誠山の客室は全11室。1階の客室は洋室にリニューアルし、2階の客室は和室の雰囲気を活かした内装に変更しました。大広間は22時以降、ドミトリー(相部屋)としても利用することができます。
テレビのある客室は105号室(洋室)のみ。「せっかく畑毛温泉に来たのだから静かな環境の中、ゆっくりしてほしい」という思いから、ほかの客室にはテレビを設置していません。男将とご両親がコレクションした書籍なども置かれ、読書も楽しめます。
東京で人気のPAIRONやKUONのメニューが楽しめます!
また、男将の山本さんは現在も東京・飯田橋で飲食店を営んでおり、カフェレストラン「久遠」では誠山舎(誠山)直営の人気餃子店PAIRON(パイロン)やKUON(くおん)のメニューが楽しめます。餃子ランキングで1位を獲得したPAIRON餃子や、KUON(くおん)カレーなど、メディアでも話題の料理を集めており、ひっそりと佇む畑毛温泉で東京の人気メニューが楽しめるなんて素敵ですね。
営業時間は8:00~22:00(最終受付20時)、日帰り温泉利用の際はもちろん、食事だけでも利用できます。
誠山の食事は軽食から会席料理まで幅広い選択肢があります。お食事処「福・禄・壽」ではお昼1,500円~、夜2,500円~。12種程度の料理でもてなす「誠山会席」4,000円もおすすめです。どちらも事前予約制ですので、お問合せを。また、宿泊者は軽洋食の朝食が無料サービスになります。
完全予約制の会員制食楽倶楽部もあります
また、完全予約制の会員制食楽倶楽部「CHI.JIN.YU」が併設されていて、無料会員登録後に予約ができます。焼き肉やすき焼き(冬)など、予算に応じて料理をつくってくれると伺い、一度利用してみたいと思いました。宿泊しなくても利用できるので、時間のない友人との会食にも良さそうです。
湯種もイチオシ!
伊豆畑毛温泉の期待の星
誠山は宿だけでなく、併設されたカフェレストランや会員制食楽倶楽部など、とても魅力的で次回はプライベートで友人を誘って訪れたいと思いました。
こんな素敵な施設が新設されたことで、若者など、これまで畑毛温泉に来たことがない新たな顧客層を呼び込める可能性があると感じました。時代に合った新しい湯治が楽しめるような気がします。そして湯種の大好きな畑毛温泉街全体が活気付いてくれれば良いなと思いました。
向いの「廣池千九郎畑毛記念館」も要チェック!
高橋館(本館)の離れが移築されています
誠山の向いには公益財団法人モラロジー研究所が運営する「廣池千九郎畑毛記念館」があります。
誠山の温泉紹介のところで少しふれましたが、法学博士の廣池千九郎(1866-1938)は静養のため明治30年代後半に畑毛温泉をたびたび訪れていたそうです。病弱だった廣池千九郎は全国の温泉で治療を行ない、温泉博士と称されました。大正12年(1923年)に大病をし、湯治のため、誠山のルーツである琴景舎(後の高橋館/本館)に訪れ、逗留をしたそうです。「とにかく皮膚の神経に効く」と湯治をしながら、その離れで執筆したのは総合人間学モラロジー(道徳科学)の原典『道徳科学の論文』。後に廣池千九郎が別荘として建設した富岳荘には、琴景舎の離れの部屋を譲り受けて移築しました。現在もその離れを見学することができ、展示室には『道徳科学の論文』を執筆した様子を関連資料とともに展示しています。誠山に訪れた際には、ぜひ立ち寄ってみてください。
アクセスをチェック!
最寄り駅はJR函南駅や伊豆箱根鉄道駿豆線大場駅
電車の場合、JR東海道本線の「函南(かんなみ)」駅からタクシーで約10分。東京方面からですと、函南駅は「熱海駅」の次の駅です。
男将の山本さん曰く、「函南駅は広場も含め、売店・喫茶店・喫煙所さえありません。山と沢の匂い、小鳥の鳴き声だけがある駅です。しかし、何とも懐かしい雰囲気を醸し出すコロニアル風の建物が私は大好きです。なんと、静岡県内にある東海道本線の駅としては唯一、町に所在する駅だそうです」。のんびりとした鉄道の旅と湯治の組み合わせも良さそうですね。函南駅からの送迎もあるそうですので、事前にお問合せをしてみてください。
また、伊豆箱根鉄道駿豆線「大場(だいば)」駅からも伊豆畑毛温泉に行くことができます。取材当日、大雨のため熱海駅で電車が止まり、同行スタッフが足止めを食ってしまいました。東海道新幹線は動いていたため、熱海駅から三島駅へ移動して伊豆箱根鉄道駿豆線に乗り換え、大場駅へ向かったそうです。大場駅からもタクシーで10分位です。ちなみに大場駅は伊豆長岡駅から所要時間は11分ほど。意外と近くですので、伊豆長岡温泉の帰りなどにも寄れそうですね。
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