古奈別荘 伊豆長岡温泉
全室離れの隠れ宿で「古奈の名湯」を楽しむ
昭和初期の京風数寄屋造りにうっとり
伊豆長岡温泉は古奈温泉と長岡温泉の総称で、古奈温泉は源氏山の東麓に湧出しています。古奈温泉は鎌倉時代の文献『吾妻鏡(あづまかがみ)』にその名が記されており、古くから湯治場として栄えてきました。
「古奈別荘(こなべっそう)」は古奈温泉の中でもいくつのも旅館が軒を連ねるあやめ小路に位置しています。古い建物と石畳の道が京都の街並のようでとても風情があり、以前から古奈別荘に訪れてみたいと思っていました。
古奈別荘は化粧品のウテナクリームで知られる株式会社ウテナの創業者、久保政吉氏の別荘として昭和10〜12年に建築されました。古奈ホテルとして開業されたのは昭和14年。その後古奈別荘に改名し、現在に至ります。
古奈別荘は小高い源氏山を借景にして、自然の景観の中に点在する複数の離れで構成されており、貴重な昭和初期の和風建築と別荘の風情を現在に伝える格調高い老舗旅館です。
自然に囲まれた敷地は思いのほか奥行きがあり、四季折々の眺めが楽しめる庭園や源氏山の傾斜を利用して建てられた6棟の離れ客室などがあります。
さらに石畳を進んで行くと、正面に五重の塔が見えてびっくり。実はこちらはエレベーター棟になっており、かつては渡り廊下を用いて離れの客室と行き来していたそうですが、不便なことからエレベーターを備えたそうです。
日本情緒あふれる庭園の池では鯉が気持ちよさそうに泳いでいました。
「古奈の湯」をレトロ感のある湯屋で楽しむ
古奈別荘には男女別の大浴場「富貴の湯」「千歳の湯」があり、名湯「古奈の湯」を楽しむことができます。それぞれの湯屋は独立しており、その佇まいは古き良き時代の風情を感じました。
脱衣所もレトロな雰囲気でたまりません。存在感のあるマッサージチェアが置かれ、貴重品入れの鍵式ロッカーも用意されています。
脱衣籠もさりげなくオシャレです。
内湯はどことなく昭和の香りがする浴室ですが、モダンな雰囲気も感じられます。壁のイエロー系のタイルと湯船の底のブルーのタイルのコントラストが印象的。
洗い場はシャワー付きで利用しやすく、窓から陽光が入るので明るい雰囲気です。
露天風呂は岩風呂になっており、庭園の木々や藁葺き屋根の建物が見え風情たっぷり。秋の紅葉シーズンはさらに素敵な眺めになることでしょう。ゆっくりとした時間の流れを感じながら、古奈温泉を楽しむ湯種でした。
泉質はアルカリ性単純温泉。体に刺激の少ないやさしいお湯で美肌の湯と言われる伊豆長岡温泉のなかでも古奈の湯は昔から火傷や皮膚病などに優れた効能が伝えられ、「くすり湯」と呼ばれてきました。
古奈温泉の開湯は鎌倉時代です。湯谷神社の下から自然湧出しており、この源泉を元にして湯治場が形成され、古奈温泉として発展していったと言われています。
古奈地区では大正時代に入ってから続々と温泉の掘削が行なわれました。現在、伊豆長岡温泉では源泉保護のため集中管理方式を採用していますが、古奈別荘の源泉は伊豆長岡の町史によると昭和9年頃に掘削されたようです。
「千歳の湯」は婦人用の大浴場です。こちらも趣のある湯屋ですね。
女性用の脱衣所は2面に大きな鏡が設えられていて、レトロ感のある調度品も素敵です。
使い込まれた感じの鏡台も良い味を出していました。
内湯からは露天風呂が見え、壁面にガラスが用いられているため、とても明るく開放的です。こうした仕様のガラスの壁はあまり見たことがないような気がしますし、オシャレですね。
露天風呂は石灯籠が置かれた純和風の岩風呂です。こちらの露天風呂も緑に包まれていて、森林浴が楽しめるようなお風呂だと思います。
お風呂上がりはテラスや洋館へ
お風呂上がりは庭園のテラスへ。殿方用大浴場に隣接しており、ここには灰皿が置かれ、喫煙もできます。庭園の木立や竹林を眺めながらのんびり過ごせます。
また、必ず立ち寄りたいのが洋館&テラスです。木漏れ日がまぶしい洋館のテラスには藤棚があり、開花シーズンには藤の花の下で過ごすことができます。
昔ながらの雰囲気を残す洋館は、かつてはビリヤードを楽しむ部屋として、バーコーナーがあり、大理石のテーブルが設えられていたそうです。現在は宿泊者が自由にくつろげるスペースとして楽しむことができます。
天井もクラシカルなデザインでとても素敵でした。
離れの客室は京風数寄屋造り
離れの客室は全て京風数寄屋造りになっており、「数寄屋造りの客室は見た目こそ簡素ですが、良質な素材を用い、釘を1本も使わないでつくられています」と女将さん。
最初に建てられたのは、離れの「宇治」。外観は銀閣寺を模してつくられたという藁葺き屋根が印象的な2階建ての建物です。もともとは茶室として宮大工の棟梁が1人でじっくりと時間をかけてつくりあげたそうで、落ち着いた佇まいが素敵です。
ここで湯種が気になったのは藁葺き屋根のお手入れです。10年ごとに補修しないとボロボロになってしまうとのことで、久保氏の別荘時代から当時のままに維持しているのはスゴイことだと思いました。
「宇治」のほか、「香月」「日の出」「山荘」「当り」「静楽」という離れの客室があり、すべて間取りや意匠が異なり、全室温泉の浴室付きです。その中で「当り」の客室に案内していただきました。
「当り」の客室と聞いたときに思わず口から出た言葉は「当りとは縁起が良いですね!」。井伊湯種は古い日本建築が大好きなこともあるのですが、客室名を聞いただけでもワクワクしてしまいました。
玄関で靴を脱ぎ、「当り」の室内に入ると厳かな雰囲気に圧倒されました。この客室は戦後まもなく建てられたもので、古い和風建築だけが持つ独特の空気感があります。
平屋建ての客室は3部屋で構成されており、玄関を入ると8畳+8畳の二間続きの和室があり、さらに奥には回り廊下をはさんで6畳の和室という広々とした間取りです。この客室には日本画家の鏑木清方氏が宿泊し、その際に「菊美人」と題した作品を描かれたそうです。
奥の6畳の和室は静寂に包まれており、落ち着ける雰囲気。お正月に家族連れで宿泊された方のお子さまはこの部屋で受験勉強をしていたそうです。いろいろな使い方がありそうですね。
天井や壁、建具などの意匠も凝っていて目を見張りました。自然の素材で編んだ網代(あじろ)が使われていたり、伝統的な日本建築の美しさが散りばめられています。
客室の廊下の天井も格子状になっており、贅沢な造りになっています。
8畳の和室には障子の下半分にガラスがはめられた雪見障子が使用され、部屋にいながらにして外の景色が見えるようになっています。ここから見えるのは岩山の風景。特に雨の日は苔が美しく風情があります。
このガラスも昭和初期のもので揺らぎがあり、割れてしまうと同じものは手に入りません。
雪見障子を開けると、一気に山の香りに包まれ、この客室が源氏山の麓に立地しているのを実感しました。
お風呂の入口は廊下にあり、戸を開けると階段を降りていく仕様になっていてびっくり。階段の先には大理石の湯船を備えた浴室がありました。客室内のお風呂でも古奈温泉を楽しめます。
お手洗いも2箇所に用意され、ウォシュレット付きです。家族やグループでの宿泊に向いている客室だと思いました。
食事は四季の自然を眺めながら堪能できます
食事処は母屋の大広間を利用しており、「旬菜 源氏山」と呼ばれています。食事は食事処で庭園を眺めながら、伝統とモダンの調和をテーマにした懐石料理を楽しむことができます。
また、「旬菜 源氏山」では野菜を中心に地元の食材を使い、丁寧につくりあげたおばんざい(京都のお惣菜)のビュッフェ・ランチを楽しむことができます。ランチの営業時間は11:30〜14:30。料金は2,000円から。優雅にヘルシーなランチで楽しめるため、女性に大人気です。
また、大広間の床の間でとても素敵なコンセントを発見しました。昔のコンセントで今は使われていないそうですが、達磨のカタチをしていてユニーク。こうした発見をするのも古い和風建築の宿を訪ねた時の楽しみの一つです。
至るところで古き良き時代の昭和の香りを堪能できる古奈別荘。実に風情があり、次の機会には宿泊してみたいと思いました。
湯種もイチオシ!
ワンちゃんと一緒に泊まれます
古奈別荘では目的や料理などに応じて、さまざまな宿泊プランが用意されています。その中でも愛犬と滞在できるプランがあり、利用する方が多いそうです。小型犬(5kg以内)に限り、1頭3,240円で飼い主さんと同じ客室に宿泊できます。
古奈別荘は全て離れの客室ですから、ワンちゃんも気兼ねなく過ごせそうです。食事や寝具、トイレなどは自分で用意する必要があり、館内を移動する時はワンちゃんを「抱っこ」するなど、館内のルールはありますが、一緒に旅行できるのはうれしいですよね。詳しくはお問合せください。
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