希望園
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伊豆の山奥で見つけた“遊び心の詰まった温泉”
ラジコンと温泉が出会う場所
伊豆の里山にたたずむ、昭和レトロな温泉「希望園」
ラジコン好きのオーナーが再生した、地元の名湯
伊豆の自然に囲まれたのどかな土地に、ちょっと変わった温泉があります。その名は「希望園(きぼうえん)」。
地元の人も意外と知らない隠れた名湯。ここは伊豆の穴場とも言えます。
一見すると昭和の面影を残す昔ながらの公衆浴場のようですが、扉を開けると驚かされます。館内にはガンダムの模型やミニ四駆、パチンコ台まで並び、まるで“大人の遊園地”のような世界が広がっているのです。
「希望園」は静岡県伊豆市上白岩にあり、伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅から車で約10分、新東名高速道路の長泉沼津ICから伊豆縦貫自動車道を経由して約60分で行くことができます。
周囲には田畑や山々が広がり、里山の空気が心地よい静かな環境にあります。施設の向かいには広い専用駐車場が用意されているので、車で訪れる方も安心です。
「希望園」のオーナーは、ラジコンやミニ四駆の動画を配信しているYouTuber「そのらん」さん。もともと地元出身で、5年前に前オーナーからこの温泉を引き継ぎ、自らの手で少しずつ整えてきたそうです。屋外には「そのらんサーキット」と呼ばれる本格的なラジコンサーキットもあり、その界隈では知る人ぞ知る人気スポットになっています。
受付には、看板犬の「プルちゃん」という小型犬がいます。人懐っこい性格で、時折かわいらしい声であいさつしてくれることもありますが、事務室の扉を開けなければ外に出てくることはありませんので、犬が苦手な方も安心して利用できます。
井伊湯種(いいゆだね)も「ここ、面白いから行ってみて」と温泉好きの知人に紹介され、3年ほど前に初めて訪れました。伊豆では珍しいpH9.2のアルカリ性単純温泉を源泉かけ流しで楽しめる貴重な湯処。そして、屋外のコースでラジコンカーが走る光景を見てすっかり魅了されました。
それでは、詳しく紹介していきましょう。
事務室内にいる看板犬のプルちゃん
「希望園」は、少なくとも45年以上前から地元で親しまれてきた温泉です。
そのらんさんが幼いころには既にこの場所に湯が湧き、地域の方々の憩いの場になっていたとのこと。泉質の良さは当時から評判で、遠方からわざわざ入りに来る常連の方もいたそうです。
やがて施設は閉じられ、現在のオーナー、そのらんさんが5年前に引き継ぐまで、しばらくのあいだ手つかずの状態になっていました。
会社員として働くかたわら、趣味で始めたYouTubeチャンネル「そのらんTV」でラジコン動画を配信していたことがきっかけとなり、ファンが増えるにつれて「自分のサーキットをつくりたい」という夢が膨らんでいったといいます。
そのらんさんが所有していた土地の向かいにあったのが、まさにこの「希望園」。「サーキットと温泉を一緒にやったら面白いかもしれない」と考え、2020年頃に温泉を受け継ぎ、再スタートしたそうですが、この素晴らしい温泉を復活させてくれたオーナーには、本当に感謝です。
最初はシンプルな温泉施設でしたが、「だんだん自分好みに変えていった」と笑顔で話してくれました。
「温泉の泉質が評判で、温泉目当てに来るお客さまがほとんどなんですが、来てみるとびっくりして、中で遊んでいく方も多いですよ」。地元生まれのオーナーが、趣味と温泉を融合させたこの場所は、まさに“遊び心の詰まった温泉”といえるでしょう。お話を聞いているだけで、こちらまで元気をもらえるような明るい人柄が印象的でした。
毎分243リットルの自家源泉をかけ流し 肌がすべすべになる美肌の湯
受付を過ぎて外に出ると、少し坂道を上った先に温泉棟があります。
源泉はこの施設から少し離れた山の中に湧く自家源泉「希望の湯 白岩10号」。
湧出温度は46.7℃、泉質はアルカリ性単純温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)です。
無色透明でやわらかな肌ざわりが特徴で、湯舟には加水・加温・循環ろ過や塩素消毒を一切行っていない、そのままの源泉がかけ流されています。
それでは、まずは男湯から見てみましょう。
入ってみると刺激が少なく、からだにとても優しい感じの湯。
温泉分析書ではpH9.2、実測ではpH9.39という高いアルカリ性を示しています。
とろみを感じるツルツルの湯ざわりで、入浴後はお肌がスベスベになります。まさに美肌の湯です。
さらに、シャワーやカランから出てくるお湯もすべて温泉という贅沢さ。
湧出量は毎分243リットルと豊富で、男女それぞれ一つずつの浴槽を満たすには十分な湯量です。
そして、46.7℃の源泉が、浴槽まで引き湯する間に冷めて約40℃(取材時の実測は40.7℃)の適温に。
季節によって多少変わるものの、いつまでも浸かっていたくなる快適な温度でした。
取材時は夏でこの湯温でしたので、寒い時期にはもう少し温度が下がってしまうと思います。
冬場の対策についてオーナーに聞いてみたところ、「冬は温度調節のためにもっと凄まじい量の源泉を投入するんですよ」と笑いながら話してくれました。
浴槽の大きさに対して十分な湯量があっても、湯温が熱すぎたり冷たすぎたりすると浴槽の温度を適温に保てなくなるため、せっかくの湯量を活かせません。ここ「希望園」では湯量と湯温のバランスが見事にとれているからこそ、大量の源泉を投入することができているのです。湯舟のふちからお湯がザバザバとあふれ出す様子を見ているだけで、思わずうれしくなってしまいます。温泉マニアにはたまらない光景です。
湯量と湯温の両方に恵まれないと実現できないため、「源泉かけ流し」を掲げている温泉施設の中でも、ここまで気持ちよくお湯をあふれさせているところは決して多くはありません。
温泉は空気に触れた瞬間から酸化・劣化が始まるといわれますが、ここでは新しい源泉をどんどん注ぎ込み、浴槽の湯は20分ほどですべて入れ替わるとのこと。まさに鮮度抜群ですね。
「湯量が多いので、他の温泉施設からうらやましがられることもあります」と、オーナーが笑顔で話してくれました。
鮮度抜群の湯をゆったりと堪能する井伊湯種(いいゆだね)
浴室は当時の造りをそのまま残していますが、換気扇の設置や脱衣所の整理など、少しずつ手を加えながら使いやすく整えているそうです。「自分がきれい好きなので、自分が気持ちよく使えるくらいにはきれいにしておきたいと思って」と話すオーナーの言葉どおり、全体的にとても掃除が行き届いており、気持ちよく利用できます。
ドライヤーは電力の関係で1台のみですが、ワット数が少なくても風量のある美容室仕様のものをわざわざ探して設置したとのこと。こうした細やかな心配りもうれしいですね。なお、無料のボディソープやシャンプー、リンス等は置かれていないため、必要な方は持っていくか、受付で購入するとよいでしょう。
続いて、女湯の方を見てみましょう。
アヒルの人形を多めに置くなど、思わず笑顔になるような工夫もあります。美肌の湯ということもあり、壁には手書きのイラスト入りのポップが飾られ、女性がくつろぎやすい温かみのある雰囲気です。
ミニ四駆サーキットやパチンコ台などがある
レトロな休憩所
坂を下って受付と休憩所のある建物に戻りましょう。
道の途中にはモミジや河津桜が植えられており、春と秋には彩り豊かな景色を楽しめます。豊かな自然に囲まれたのどかな雰囲気が、心地よい場所です。
受付前には無料の鍵付きロッカーが設置されており、貴重品を預けて安心して入浴できます。
休憩所は、もともと食堂として使われていた場所を改装しています。手前にはミニ四駆のサーキット、奥にはパチンコやパチスロ台が並びます。
このサーキットもかなり本格的で、オーナーいわく「少し大きすぎるので、縮小しようか考え中なんです」とのこと。
ご家族連れが訪れると、まずお子さんがここで遊びたがるというのも納得。
「ご両親が『まずはお風呂入ってからね』と言っても、お風呂のあとにぱぁーっと走って戻ってきて遊ぶんですよ」とオーナーは笑います。なかなか帰りたがらず、泣いてしまうお子さんもいるそうです。
ラジコンやミニ四駆のレンタルはないため、遊ぶ際は持っていく必要がありますが、ボードゲームも用意されているので、家族や友人とゆっくり過ごすのにもぴったりです。温泉のみの利用は1時間ほど、休憩所を利用する方は2時間前後の滞在が多いとのことでした。
そして、驚いたのは床下には温泉を利用した床暖房が入っていることです。
新しく設置したのかと思ったら、「昔からそうなんですよ」とオーナー。
冬場でも建物全体がほんのりと温まり、寒い季節も快適に過ごせるそうです。湯量豊富な温泉をしっかりと活用されていますね。
受付では、時々そのらんさんがラジコンの整備をしたり、プラモデルを組み立てたりしている姿を見ることができます。ガラスケースの中には、限定モデルや今では手に入らないプレミアム品がずらり。日本で数人しか持っていないという貴重なものも並んでいるそうです。どれも大切に扱われていて、眺めているだけでワクワクします。お話をうかがっていると、少年のころの好奇心をそのまま大人になっても持ち続けているような、そんな情熱が伝わってきました。
思わず見入ってしまうお客さんが多いのも納得です。
自然の中を駆け抜ける迫力の「そのらんサーキット」
屋外の「そのらんサーキット」を見せてもらいました。
およそ900平方メートルにも及ぶ広大なコースで、周囲の山々に囲まれた大自然の中をラジコンカーが駆け抜けます。
この場所はもともと田んぼだったところで、長い間使われていなかった土地をオーナーが整備し、現在のサーキットに生まれ変わらせたそうです。
これだけの規模を誇るラジコンカーのコースは、近隣ではなかなか見られないとのこと。都心から訪れるファンも多く、週末には遠方ナンバーの車が並びます。
利用料金(税込)は1人1日2,000円(高校生以下1,000円)。半年パスポートは14,800円、年間パスポートは23,800円(高校生以下は半額)と、リピーターにはうれしい価格設定です。
充電設備も整っており、走行しながらメンテナンスができる環境が整っています。
ラジコン目的で訪れる方が多いのはもちろん、走行を楽しんだあとの温泉が楽しみというお客さんも少なくないそうです。
また、温泉を目当てに訪れた方がサーキットを見て興味を持ち、ラジコンを始めるという逆のパターンも。まさに「温泉×趣味」の相乗効果がここにはあります。
この日お話を伺った常連の親子は、開業当初から通っているというお二人。「こんな広いところはなかなかないですし、集まるメンバーがいいんですよ。東京から月2回ほど来ています」と話してくれました。夏は日が長く、朝から夕方までサーキットを満喫。「夏は帰りまでサーキットに集中して、冬は温泉で温まってから帰ります」と笑っていました。
親子でドライブを楽しみながらここを訪れ、一緒にラジコンを走らせて、最後に温泉で汗を流す。そんな休日の過ごし方を見ていると、ますます心が温まるような気がしました。
常連の親子にお話を伺いました。写真撮影のご協力、ありがとうございました
この日はそのらんさんもレースに参戦です
遊びも癒やしも一度に叶う
伊豆の隠れ家「希望園」で過ごす休日
ここには、ラジコンやミニ四駆が並ぶ“遊び心”と、湯量豊富な源泉かけ流しの本格的な温泉という、2つの世界が共存しています。
土日は15時頃が特に賑わう時間帯とのことで、サーキットや休憩所にも多くのファンが集まります。
自転車で訪れる方も時々いるそうで、「木に自転車をくくりつけてもいいですか?」と尋ねられることもあるとか。木が傷ついてしまうこともあるため、その場合はぜひ受付でひとこと確認を。給水が必要な際は、休憩所の水を自由に使ってよいそうです。
オーナーが大切に守る温泉と、趣味を通じて生まれる交流の場。地域の人々にとっても、遠方から訪れるファンにとっても、ここは“好きなことを思いきり楽しめる特別な場所”のようです。
静かに湯に浸かるもよし、ラジコンを走らせて童心に返るもよし。
伊豆の自然に囲まれた「希望園」は、訪れる人それぞれにとっての“遊びと癒やしの楽園”でした。
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