天狗之杜
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深さ1,000mから湧き出る源泉と200mからの天然水!
女将さんのやさしさが沁みる、成分濃厚な美肌の湯
中伊豆の山あいで、湧きたての自家源泉と和食を楽しむ
修善寺駅から車で約10分。中伊豆の山あい、田んぼの景色が広がるのどかな場所にある「天狗之杜(てんぐのもり)」。
こちらは2010年4月、「温泉に入れる和食屋」として誕生しました。食事の合間に温泉を楽しめるという贅沢なスタイルが評判を呼び、地元の方々だけでなく、遠方からも多くの人が訪れるスポットとなりました。
2011年8月には宿泊もできる温泉宿へと進化。自家源泉かけ流しの温泉で、浴槽はコンパクトな「杜之湯」と4つの「客室風呂」があり、いずれも日帰りでも利用できます。「杜之湯」は1時間300円(税込)とリーズナブル。宿泊もできる客室にある「客室風呂」も1時間700円(税込)で貸切利用できるのは驚きです。敷地内にはキャンプ場も併設されており、温泉と自然のどちらも満喫できる贅沢なロケーションです。
現在、宿泊はもちろん食事や日帰り入浴もすべて予約制で、ゆったりとした時間を大切にするスタイルで営業しています。利用する際は、必ず事前に予約をしてから訪れましょう。
それでは、「天狗之杜(てんぐのもり)」の魅力をご紹介していきましょう。
1,000mの深さから湧く自家源泉
シャワーには天然水を使用しています
1,000mの深さから温泉を、そして200mの深さから天然水を汲み上げているという「天狗之杜」。
敷地の一角には、ここから温泉が湧いていることを知らせる「源泉やぐら」が、少し上がった場所にはタンクがあり、どちらもすぐ近くで見ることができます。温泉好きにはたまらない光景です。
源泉名は「梶山温泉 城2号」。もちろん自家源泉です。
泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉で、無色透明、肌をすべるようなツルツル感のある美肌の湯。pHは温泉分析書によると9.60、実測で9.39のアルカリ性です。
泉温は61.5℃と熱く、源泉から浴槽までの距離が近いため浴槽に投入される湯も熱めですが、なるべく加水せず源泉そのままに浸かれるよう、少しずつ投入しながらかけ流しています。
夏のように気温が高い季節は冷めにくいので、ゆっくりお湯を貯めて入りやすい温度に仕立てているそうです。
入浴中も源泉は常に少しずつ投入され、その分がオーバーフローしており、止めることはできません。熱くなり過ぎないように流量が調節されていますが、もし熱い場合は、天然水で加水することもできます。これは、加水してしまっても、水道水に含まれる「塩素」を浴槽に入れないためのこだわりだそうです。
シャワーの湯や水ももちろん敷地内から湧く天然水を使用。「これでご飯を炊いたら美味しいんですよ」と女将さんが笑顔で話すとおり、柔らかな水は料理やお風呂にもぴったり。髪が長い方は「シャンプー後の手触りが違う」と驚かれるそうです。
実際にこの天然水を飲ませてもらいましたが、まろやかで角のない味わいでした。
それでは、まずは宿泊棟の方から見てみましょう。
宿泊棟には日帰り利用もできる「客室風呂」があります。
温泉付客室が4部屋。宿泊の場合は、3人用が3部屋、2人用が1部屋になっています。
そして、予約すればこの客室風呂に1時間700円(税込)で日帰り入浴することもできます。
浴槽は伊豆石を用い、部屋によってはヒノキで囲んだものも。今では採石がほとんど行われていない貴重な伊豆石の風合いが、湯のぬくもりを一層引き立てます。
今回撮影させてもらったのはこちらのお部屋。
部屋によって、大きさや形は異なるそうです。
宿泊で使用している部屋を休憩用の個室として利用することもでき、その場合は3時間1人2,000円(税込)。なお、3名以上で利用する場合は、1部屋5,000円(税込)になるのでお得。延長料金は1時間1,500円(税込)です。
宿泊の場合は1泊朝食付きで13,350円(税込)。
お客さまが帰られた後は毎回湯を抜いて浴槽を乾かすなど、丁寧に清掃されています。
源泉かけ流しの湯を堪能する井伊湯種(いいゆだね)
続いてご紹介するのは「杜之湯」。
食事処のすぐ隣にあるこの小浴場は、なんと一人1時間300円(税込)で貸切利用ができるというから驚きです。
源泉かけ流しの本格的な湯をこの価格で独り占めできるとは、なんて幸せなことでしょう!
ただし、午後を中心に常連の方で予約が埋まってしまうことが多く、利用の際は事前予約が必須とのこと。地元で長く愛されてきた温泉だということがよくわかります。
「肌がつるつるになった」「強張っていた肩がほぐれた」といった声が寄せられるほか、「日頃の不調を癒すためにいらっしゃる方も多く、からだに染み込むような感じがするとおっしゃる方もいます」と女将さん。「ここのお湯が好きで、毎日のように通われる方もいらっしゃいます。多い日は10人以上利用されることもあるんですよ」と話してくれました。
温泉好きの間で、この付近では特に成分の濃い温泉として注目されている「天狗之杜」の湯。湯口には湯の華で形成された析出物がしっかりと付着しており、これを見ているだけで頬がゆるみます。
湯の華の付き具合は女将さんが日々チェックしていますが、取り除いてもすぐにまた付着してしまうとのこと。あまり触らないで、そのまま育てたら立派なアートになるのになぁ、と密かに思った井伊湯種ですが、細やかな手入れの中にも、この湯を大切に守り続けてきた時間の積み重ねが感じられました。
三段重に詰まった旬のごちそうをいただきました!
食事は、入り口を入ってすぐの食事処(宴会場)でいただくことができます
この日は「日替わりランチ」をいただきました。季節の野菜を使った天ぷらを中心に、手づくりの惣菜を少しずつ詰め合わせた三段のお重。一の重には、サバの塩焼き、味をしみ込ませて焼いた鶏肉、ほうれん草のおひたし。二の重には、シイタケやナス、カボチャなどの天ぷらに、ふろふき大根、ホタテともずく酢を合わせた一品。三の重には、ゆかりがのったご飯とお味噌汁が添えられ、彩りも美しい献立でした。
春になると敷地内で採れたふきのとうなどの山菜や修善寺のシイタケなど、地元の旬の味覚が登場するそうです。「温泉の配管が温かいので、ふきのとうは早くに顔を出すんですよ」と女将さんがにこやかに話してくれました。何が並ぶかはその日のお楽しみ。季節の移ろいを感じる料理が味わえます。
また、慶事や法事、宴会などにも対応しており、人数や内容に合わせて特別メニューの相談も可能とのこと。
リピーターの方が多く、連泊されるお客さまも。食事は館内の食事処でいただくこともできますが、滞在が長い方には、近隣の飲食店を紹介することもあるのだとか。
「うちは“1泊2食付き”という形はとっていません。もちろん、夕食の提供もできますが、地元の飲食店さんとも一緒にやっていきたいと思っていて。連泊されるお客さまには、『こんなお店もありますよ』とご紹介しているんです」と女将さん。
2025年4月で15周年を迎えたという「天狗之杜」。昨年から近隣の飲食店に「お客さまをご紹介してもいいですか」と確認をとったうえで紹介しているそうです。
「本当はオープン当初からそんなふうにしたかったんですが、最初のころは知名度もなくて。でも15年経って、今では周囲の皆さんにも知っていただけるようになりました」とのこと。
女将さんの言葉からは、地域とともに歩んできた年月と、今も変わらず温かい交流を続けている「天狗之杜」の姿勢が感じられました。
三段重の蓋を開ける瞬間は、思わず心が弾みます
女将さんの心づくしの手料理と、天然水で炊いたご飯が美味しかったです!
「天狗之杜」という名前には、この土地ならではの物語が込められています。かつてこのあたりは林で、昔から“天狗が出る”と語り継がれてきたそうです。
「今は昔話を知る人も減ってきていますが、ここがその伝承を受け継ぐ場所になれたらと思って、この名前をつけたんです。あとで地元の方に聞いたら、裏山に本当に“天狗の森”と呼ばれる場所があったそうで。つけるべくしてつけられた名前だったみたいです」と女将さん。食事処のあちこちに天狗をモチーフにした飾りが置かれ、穏やかな笑みを浮かべて訪れる人を見守っています。
さらにこの土地には、もうひとつの物語があります。「天狗之杜」の源泉は、30年以上前のバブル期に、女将さんのお父様が“温泉が出る”と信じて掘り当てたもの。「父が“ここは地面が高いから温泉が出るに違いない”と、調査もせずに掘ったんです。結果的に本当に湧き出たのですが、特に使いみちも考えていなかったようで、裸電球の下に簡素な浴槽を置いて“ご自由にどうぞ”と案内していた時代もありました」とのこと。このお話を聞いて、温泉マニアの井伊湯種は「その時に来たかった!」と思いました。しかし実際にはお湯が熱すぎて簡単には浸かれず、水道も引いていなかったため、一度は止めてしまったそうです。その後長い年月を経て、2010年に「天狗之杜」として再び命を吹き込まれました。
女将さんは高校卒業後、東京で暮らしていましたが、地元に戻ることを決意。しばらくして「この場所を活かして、定年のない仕事をしたい」という思いから「天狗之杜」を開きました。「コロナ禍では廃業も頭をよぎりましたが、リピーターのお客さまに支えられて、なんとか続けてこられました」と語る女将さん。
お話を聞きながら、あらためてこの場所の“人の力”と“土地の縁”に心を打たれました。
BBQやキャンプが楽しめるスペースもあります!
建物から少し上がった場所には、BBQやキャンプが楽しめるスペースも。豊かな自然を眺めながら、のんびり過ごせる心地よいロケーションです。
団体さんが来られる際は、このスペースが臨時の駐車場として使われることもあります。キャンプは入浴料込み1人3,000円(税込)で利用できますが、時期によってはお休みしていることもあるため、事前に電話で確認をしておきましょう。
女将さんの温かさに癒される、“また行こうかな”と思える温泉
日帰りで温泉に浸かったり、個室でくつろいだり、旬の味を楽しんだりと、過ごし方はさまざま。「天狗之杜」は地元の方はもちろん、他県から来られる方も含め、常連の方々に長く親しまれています。
「子どもの頃にご両親と来ていたお客さまが、大人になってご自身の家族を連れてきてくださることもあるんです」と女将さん。10名以上での貸切も可能で、会社の仲間やツーリンググループなど、名古屋や京都といった遠方から来られる方もいるそうです。人数が多い場合は、食事処にも布団を敷いて宿泊できるとのこと。
「また行こうかな」と思ってもらえるような雰囲気づくりを大切にしているという女将さん。湯のぬくもりや心尽くしの料理の味わいはもちろんのこと、迎えてくれる人の温かさこそが、「天狗之杜」の一番の魅力だと感じました。
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