泊まれる廃墟 ぐんじょう
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朽ちかけた旅館に新たな生命を吹き込む!
温泉浴室付きの“泊まれる廃墟”
ただの改修ではない、「泊まれる廃墟」という新たな価値
「旧・指月荘」だった建物をリノベーション
修善寺温泉の中心地の一角に、「泊まれる廃墟」があり、地元で話題になっているとスルガ銀行修善寺支店の社員から教えてもらいました。その名も「泊まれる廃墟 ぐんじょう」。
“廃墟を再生した宿”という個性あふれるコンセプトに惹かれ、井伊湯種(いいゆだね)も訪れてみることにしました。
それでは、詳しく紹介していきましょう。
「泊まれる廃墟 ぐんじょう」は、観光スポットが集まるエリアにありながら、“静けさの中にたたずむ廃墟”という独特の存在感を放つ建物です。温泉街のにぎわいとは少し異なる、特別な空気を味わえる場所でもあります。
廃墟として長く眠っていた建物が、どのようにして話題のスポットへと生まれ変わったのか。
その物語は、かつて多くの人に親しまれていた温泉旅館「指月荘」から始まります。
修善寺の温泉旅館として長く愛されてきた「指月荘」ですが、時代の流れとともに営業を終え、建物は約10年もの間、手が入らない状態で残されていたそうです。
オーナーが建物を取得したのは2017年ごろ。
5年ほどの構想期間を経て、その後少しずつ改修を進め、約2年かけて現在の姿へと整えられ、2024年2月に「泊まれる廃墟 ぐんじょう」としてオープンしました。
オーナーは地元のご出身ですが、普段は会社員として別の地域で働いているとのこと。「たまたま通りかかったときにこの建物を目にし、これは使えそうだなと思ったんです」と話していました。最初は副業や趣味の延長だったそうですが、改修を進めるうちにテナントも入り、気づけば気持ちの上での比重が「泊まれる廃墟」へ移っていったそうです。
旅館時代は13室あった建物ですが、現在は、2人部屋が2室、4人部屋が1室の計3部屋を宿泊施設として運用し、一部はテナントとして生まれ変わっています。
宿泊されるお客さまの多くは海外の方。「和の雰囲気」や「泊まれる廃墟」という独特の世界観に惹かれ、ヨーロッパをはじめ、台湾・中国・韓国からの利用者が多いそうです。宿泊スタイルとしては、素泊まりで気軽に泊まり、温泉に入り、修善寺の散策を楽しむ方が中心。総合受付がなく出入り自由なつくりが、海外の方にとって特に心地よいのかもしれません。
ホテルのチェックイン・チェックアウトはセルフ方式で、館内の一角にチェックインカウンターが設けられています。
事前に予約をしておくと、メールで二次元コードや案内が届き、それを端末に入力して手続を進める仕組みです。
レトロな建物に最新式のチェックインシステムというギャップが、この宿の魅力をさらに引き立てています。
建物の造りはまるで迷路のよう。
どこで手続するのかを探しながら進む時間も、この宿ならではの楽しみのひとつ。
通路を歩くたびに、非日常への扉を開いていくような期待感が高まります。
館内に目を向けると、扉や照明、フランス製アンティークのパーツなど、オーナーが探し集めたアイテムが随所に散りばめられています。
新たに加えた部分には洋風の意匠が多く取り入れられていますが、建物にもともと残されていた古い家具や、近所の廃屋から譲り受けたミシンなども織り交ぜられており、新旧が自然に溶けあっています。
館内に置かれた透明の家具は、イタリアのブランド「Kartell(カルテル)」のもの。
透明素材は空間を圧迫せず、建物のスケール感にも合うため選んだのだそうです。
ロビーの広さにも配慮し、空間が重たくならないように工夫されています。
アンティークと最新インテリアが調和するツインルーム
現在宿泊できる客室は3部屋。そのうちの2部屋を見せていただきました
まずは「ツインルーム シティビュー」からご紹介します。
一般的な旅館では廊下から各室に入りますが、こちらは部屋ごとに動線が独立しており、とてもユニーク。
この部屋はもともと客室として使われていたスペースで、間取り自体は大きく変えていないとのことです。
ただし、水道・電気・ガスといったライフラインはすべて新しく引き直し、快適に滞在できるよう整えられています。
通路の配置や視界の抜け方など、実際に歩いてみないとわからない迷路のような楽しさがあります。
ぜひ現地で体験してみてください。
天井を抜いて高さを出し、照明を追加したことで、空間はより明るく開放的になっています。窓ガラスは旅館時代のまま残されており、「こういう古い窓はもう珍しいので、あえて残しているんです」とオーナー。たしかに、少しゆらぎのあるガラス越しの景色はどこか懐かしい雰囲気で、よく「ジブリっぽい」と言われるのも納得の世界観です。
新しく入れた家具は、アンティークか最新デザイン家具のいずれか。一見ミスマッチに思えますが、不思議と空間に馴染んでいます。
棚やテーブルなど、もともとこの建物にあった家具も一部残しているそうで、新旧が同居して、空間の時間軸が混ざりあっているような感覚があります。
レトロでかわいい部屋風呂で贅沢な源泉体験
外国の方にも若い世代にも人気があります!
それではお風呂へ向かいましょう!
「泊まれる廃墟 ぐんじょう」では、すべての客室に小さな温泉風呂が備わっており、自分で湯を張る“セルフ温泉”スタイルです。
温泉は修善寺温泉の混合泉。泉質はアルカリ性単純温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)で、肌に優しく、つるりとした浴感が特徴です。
ほとんど無色透明・無味・無臭で、クセのないまろやかな湯。
温泉分析書によると泉温は60.4℃と、源泉の温度はやや高め。
源泉をそのまま堪能したい場合は、少し早めに湯を張り始め、自然に冷ますという入り方がおすすめです。
また、冬場は源泉が届くまでの最初の5分ほど冷たく感じることがあるそうですが、15分ほど経つとちょうど良い温度になるとのこと。
様子を見ながら湯加減を調節しましょう。
なお、すぐに入りたい場合は加水で温度を調節しながら、好みの湯加減に仕立てることもできます。
オーナーが大切にしているのは、「まるで自宅で温泉が出るような、日常に溶け込む温泉体験」。宿によくある“あらかじめ湯が張られた浴槽”ではなく、あえてセルフ方式にすることで、温泉の温度・量・鮮度を自分で調節する楽しさが生まれています。
とても小さな部屋風呂ですが、ドバドバと掛け流されるフレッシュな温泉を贅沢に味わえるのは、ここならではの魅力。レトロな客室の雰囲気と相まって、静かに湯面が揺れる様子を眺めているだけで、時間がゆっくりと過ぎていくようでした。
なお、現在は日帰り温泉としての利用はできませんが、将来的には1〜2部屋ほどを日帰り利用者向けに整備する可能性もあるそうです。
この源泉を自分で湯舟に溜めるという“セルフ温泉”のスタイルは、まるで自宅に温泉が湧いたかのような感覚が味わえるので、海外からの旅行者にとても好評なんだそうです。
また、海外の方、特に欧米圏では「みんなで入る大浴場」に抵抗のある方も多く、他の人を気にせず部屋で温泉に浸かれる点もこの宿の魅力になっているようです。
そもそも日常的に湯舟に浸かる習慣がない国の方にとっては、この体験自体が新鮮。「面白かった」と言われることもあるそうです。
さらに、日本人の10代・20代の若い世代にも人気があるとのこと。
タイル張りのお風呂やレトロな窓枠は見たことのないかわいい存在で、過去の当たり前だった風景は、今の若い世代には新鮮なデザインとして映るようです。
窓を開けて外に広がる木々を眺めながら入浴する井伊湯種(いいゆだね)
タオルや寝具にもこだわりが見られました。客室に用意されているタオルは吸水性が高く乾きやすいリネン素材。
寝具も一般的な綿ではなく、上質なリネンを採用しています。
肌ざわりがよく、しっとりとした風合いが心地よい贅沢な仕様です。
将来的には、タオルをより環境負荷の少ないヘンプ素材へ切り替えたいと考えているそうですが、ヘンプは高価で入手も難しく、すぐに実現するのはなかなか大変とのこと。
それでも、できる限り自然素材を使いたい、環境に配慮したいという思いが伝わってきました。
洋と和が交差するガーデンビューの4人部屋
続いて見せていただいたのは、「4人部屋 ガーデンビュー」のお部屋です。
受付横にあるアンティークの階段を上がっていったのですが、少しスリルのある揺れを感じます(安全に通行できるように補強してありますので、ご安心を!)。
階段そのものが味わい深いアンティークで、上へ向かうだけで物語のワンシーンに入り込んだような気持ちになりました。
部屋に置かれたゲストノートには、海外の利用客からのメッセージが書かれており、国籍を超えていろいろな感想が寄せられていました
「ゲストノートを読むと、“ここにしかない価値”を感じられるんです。廃墟のような建物だからこそ、他の人の言葉を見ることで仲間意識が生まれるんですよ。SNSに情報はたくさんありますが、リアルな声のほうが面白いですよね」とオーナー。
個性的なテナントが集う
“小さな寄り道スポット”としてのぐんじょう
「泊まれる廃墟 ぐんじょう」には、個性的なテナントがいくつか入っており、宿泊だけでなく“修善寺の小さな寄り道スポット”としても楽しめます。
まず案内していただいたのは、「山葵うなぎ 辻むら/修善寺CHURROS」。
うなぎ屋とチュロス屋が併設された、不思議でユニークなお店です。
浜松産のうなぎを使用しており、クセが少なく、普段うなぎが得意でない方でも食べやすい味わいなのだとか。
店先に漂う香ばしい匂いに、思わず足が止まってしまいます。
壁にくり抜かれた独特の形状の穴の向こうにはチュロス店があり、廃墟のような雰囲気を出した空間づくりがとても印象的でした。
ほかにも、「“コト”を売るコーヒー屋さん 『koto』」や、大学芋専門店「おいも屋 ろくろく」など、バリエーション豊かなテナントが入り、広場には新しいにぎわいが生まれつつあります。
宿泊だけでなく、散歩の途中にも思わず立ち寄りたくなるスポットばかりでした。
“ぐんじょう”に込めた想い。継ぎはぎの建物が生きる理由
「ぐんじょう」という名前の由来についても伺いました。
「青がかっこいいと思って。正確にはウルトラマリンの色なんです。後付けですが、“群青(ぐんじょう)”のほかに、“群れて生きる(群生)”という意味も込めています」
館内には、当時のまま残されたタイルや木枠が随所にあり、近づいて見ると手作業ならではの曲がりやゆがみが見つかります。
「タイルも一つひとつ人の手で貼られているので、きちんと整列はしていません。でも、それがいいんですよ。当時の息づかいがそのまま残っていて。古いものをきれいに保存する、というよりも、“継ぎはぎで生きている感じ”そのものに価値があると思っています」
元の質感はできる限り残しつつ、人の動線や光の入り方、空気の流れだけを大きく変えたのだといいます。
「ここは完成しないんですよ。季節が変わるように、空間もずっと変化していく。廃墟って止まった時間のイメージがあるかもしれないけど、ここは生き物のように変わり続ける場所なんです」
建物そのものが生きているようだという表現は、「泊まれる廃墟 ぐんじょう」の世界観を象徴しているように感じられました。
かつて大浴場として使われていたスペースは、現在は改修が追いつかず未使用の状態です。
オーナーは「将来はテナントのような形にできたら」と構想しており、温泉が引けることから「足湯バーのような場所にするのも面白いかもしれません」と話していました。
この空間がどのように生まれ変わるのか、今後の展開が楽しみです。
進化を続ける廃墟リノベ宿「ぐんじょう」
今後の変化が楽しみです
「ぐんじょう」は、完成された宿泊施設ではありません。
オーナーの“現在進行形のプロジェクト”であり、季節や時間の移ろいとともに姿を変え続ける、生きた空間です。
廃墟をベースに、和洋のアンティークや最新設備をミックスし、独自の発想でつくられた迷路のような構造に、終始「不思議」「すごい」と驚かされっぱなしでした。
現在は3部屋のみの運用ですが、最終的には7部屋まで増やす予定とのこと。
少しずつ手を加えながら、建物は今も成長を続けています。
廃墟の余白をそのままに、そこへ新しい命を吹き込む「泊まれる廃墟 ぐんじょう」。
時間の経過や不完全さの豊かさに気付かせてくれる、唯一無二の宿だと感じました。
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