静岡市 平山温泉 龍泉荘
まさに静岡の宝! 源泉かけ流しの硫黄泉
別名「御殿乳母の湯」、今川氏ゆかりの秘湯を堪能
JR静岡駅から車で30分ほどのところに位置する「平山温泉 龍泉荘(ひらやまおんせん りゅうせんそう)」。こちらは井伊湯種(いいゆだね)のお気に入りの温泉であり、「静岡といえば、まずは平山温泉 龍泉荘」というぐらい、温泉マニアの間で人気を誇る温泉です。
県道201号線(竜爪街道)沿いに「平山温泉入口」と書かれた大きな石の看板があり、ここが龍泉荘の入口です。
駐車場は石の看板から道を挟んで手前に3台、左の道を少し下ったところに7台ほど停められる専用のスペースがあります。下の駐車場は道が狭いので大きい車でお出かけの際は気をつけてください。
龍泉荘へは石の看板の前の道を進み、その先の石の階段を20メートルほど下ります。
石段では竹林越しに茶畑が見え、その下に長尾川が流れています。また、この石段の片側にレールが敷かれていたことも印象的でした。龍泉荘までの階段が急なため、荷物運搬用のモノレールが利用されているようです。
石段を下った先に龍泉荘がひっそり佇んでいます。玄関の手前には「然界橋(ぜんかいはし)」と銘が打たれた飾り橋があり、風情があります。
龍泉荘の開業は昭和33年。開業以来、湯治宿として親しまれてきましたが、5〜6年前に宿泊をやめ、現在は日帰り温泉のみ営業しています。
玄関に入ると、「営業中」の札を首に下げた木彫りのタヌキの置物が出迎えてくれます。
いつ見ても存在感があり、「龍泉荘に訪れた」という実感が湧きます。
営業時間は平日9:00〜17:00、土日祝日は9:00〜18:00で、定休日は毎週火曜日です。料金は大人1人1時間500円。広間でゆっくり過ごせる1日料金は1人1,000円です。
平山温泉は別名「御殿乳母の湯(ごてんうばのゆ)」といい、戦国時代に駿河、遠江、三河に君臨していた今川氏ゆかりの秘湯です。駿府城の殿様に仕えた身分の高い乳母が湯治に訪れていたことから名付けられ、かつては御殿乳母にまつわる地名もありました。
館内は湯種の大好きな昭和の香りが漂い、時間がゆっくり流れているようにも感じられます。
受付の先に男女別のお風呂があります。
脱衣所に入った途端、硫黄泉独特の香り(タマゴ臭)に包まれ、大興奮。脱衣所からはガラス越しに浴室が見える造りになっており、先客が1人いらっしゃいました。服を脱ぐのももどかしく、ウキウキしながら浴室へ向かいます。
たった1つの湯船で3種類の温度が楽しめる
浴室には内湯が1つだけですが、3つに区切られており、3つの温度が楽しめる造りになっています。湯口からは源泉かけ流しの熱めの湯が投入され、その隣の湯船にオーバーフローさせることで少し温度を下げ、さらにその次の湯船では一番温度が低くなります。たった1つの湯船で熱め、適温、ぬるめの湯が楽しめるという合理的な設計はありそうで意外とありません。ぐるぐると3つの湯めぐりができるので、お湯の温度の違いを楽しみながら長湯ができます。
湯種がこちらの温泉が好きな理由は、硫黄泉であること。この地域ではめずらしいと思います。また、冷鉱泉のため加温していますが、源泉かけ流しであり自家源泉が浴室から川沿いに十数メートル歩いたところにあることも好きな理由の1つです。源泉から浴槽までの距離が短いほど温泉の鮮度が保てるため、鮮度の良いお湯に浸かることができます。また、うっすら白っぽく濁ったお湯には湯の花が舞い、独特の硫黄の香りもたまりません。初めてこのお湯に出会った時はあまりにも自分好みで「生きていて良かった!」と思いました。まさに静岡の宝とも言える温泉です。
窓の外には長尾川が流れ、水と緑に恵まれたエリアであることがわかります。平山温泉は古くからこの川岸の岩の間から湧出しており、火傷や切り傷などの手当や体調を整えるために地元の人が利用していたそうです。
浴室の壁に貼られた温泉案内によれば、泉質は単純硫黄泉です。pH値が書かれていなかったので愛用のpHメーターで計測してみたところ、数値は「7.09」。中性のお湯であることがわかりました。
飲泉ができる幸せ
源泉が流れる湯口にはコップが置かれ、飲泉もできます。基本的に飲泉ができるところは少ないため、とても貴重ですし、飲泉ができるのはお湯の鮮度が良い証でもあります。実際に飲んでみれば、しっかりと硫黄の味がして飲み応えがあります。
ご主人にお話を伺ったところ、このお湯には殺菌力があり、特に胃腸の調子を整える作用が期待されるそうです。「昔から川岸に温泉(冷鉱泉)が湧いていました。私の父が営業の許可を取り、昭和33年に龍泉荘を始めました。私は今91歳ですが、小学生の頃、曾祖母に頼まれて御殿乳母の湯を川へ汲みに行ったことを覚えています。当時はペットボトルがなかったから、2合瓶を持って汲みに行ったものです。曾祖母は胃の薬を飲む時に温泉を使っていましたね」と懐かしそうに目を細めます。
「私も持病の薬を温泉で飲んでいます。このお湯を飲むと、体調の変化がしっかりわかりますよ」とのことでした。龍泉荘を訪れたら、ぜひ飲泉を試してみてください。
昭和33年の開業以来、石鹸使用は禁止
また、龍泉荘では石鹸やシャンプーは使えません。洗い場にはカランが1つだけあり、蛇口から出てくるのは水です。そのため、湯船に入る前にかけ湯をして体の汚れを落としてから入浴する必要があります。「お風呂なのに石鹸で体を洗えない?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。石鹸が温泉の中に入ることにより温泉の効能が損なわれるため、開業以来、石鹸使用禁止のお願いをしているそうです。温泉マニアからすると、体を洗った石鹸の残りが湯を汚すことを防ぎ、温泉の効能や鮮度を優先している姿勢に感動しました。より良いお湯を提供するために、優先するものとあきらめるものをはっきりと選択しているマニア向けの施設だと思います。
真冬でも湯冷めしにくく、体がポカポカ
龍泉荘の温泉はよく温まり、湯冷めしにくいことも特色です。「真冬の2月に登山帰りに立ち寄った親子連れがいて、この温泉に入って東京へ帰りました。夜の8時にそのお子さんから電話があり、『おじさん、まだ体がポカポカしているよ! 良いお湯だね』なんて言っていましたね」という微笑ましいエピソードもお聞きしました。
湯上がり後、休憩をしたい時は広間へ。食事もできますし、静岡おでんもメニューにありました。静岡おでんをつまみに生ビールを飲みながら、のんびりするのも楽しいと思います。
龍泉荘は常連客が多く、静岡県を中心に名古屋や東京から訪れる人もいらっしゃるそうです。ポイントカードも用意されていますので、ぜひ利用してみてください。
(2024年8月追記)
湯種が沼津に住んでいたころ、龍泉荘にはたびたび通っていましたが、転勤で神奈川県に転居してから、しばらく伺えませんでした。その間、2022年の台風により源泉が埋まってしまい掘り直したり、大雨で何度も建物が土砂災害に遭ったりと大変な状況で、営業休止の時期もあったのですが、地元だけでなく全国のファンの方々の応援や、土木事務所の協力もあり、何とか再開することができました。
今回、久しぶりに伺ったところ施設が進化していましたので、その様子をお伝えします。
2018年に取材させていただいた際にお話を伺ったお爺ちゃん(当時のご主人)は残念ながら亡くなられてしまい、その後、息子さんご夫婦が運営されていたのですが、現在はそのお嬢さんご夫婦が切り盛りされています。土砂災害等で大変な中、若いお二人で色々と工夫してこられたようです。
まず、玄関を入った左手のスペースに、「ハンドメイド商品・お土産販売コーナー」が新設されました。こちらには、若女将手作りのとても可愛い小物などがたくさん並んでいます。
浴室には、手作り感満載のウッドデッキが出来ていました。すぐ目の前が川なので、これはとても気持ちいいです。窓の外のこの空間を何とか活かせないかと思い、若旦那が作られたとのこと。窓からそのまま外に出るワイルドさも、いいですね。
ちなみにこのウッドデッキは、男湯のみに設置されており女湯にはありません。その代わりというか、女性向けには専用のパウダールームを作ったそうです。
台風で源泉が埋まってしまったため掘り直したとのことで、新しい源泉のpH値を測ったところ8.04の弱アルカリ性でした。また感覚的には、以前よりも強い硫黄臭を感じることができました。
温泉通の皆さんが大好きな龍泉荘のレポートなので少しマニアックなことを書きますが、湯種が愛用しているpHメーターは、温泉マニアの間で「緑ハンナ」と呼ばれているもので、ORP(酸化還元電位)も測定できる優れものです。今回、新しい源泉のORP値を測ったところ-186mVでした。ORPはpH値によって変動するものですが、pH8.04でORP-186mVということは、かなり還元力に優れた源泉ということになります。
最近、湯種手ぬぐいを壁などに貼ってくれる施設様が多くなってきましたが、こちらでは、こんなに立派なボードに掲示してくれていました。とても有難いことですね。
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路線バス利用者は時間帯に要注意
「平山温泉 龍泉荘」はJR静岡駅から約12km、JR草薙駅から約8kmのところに立地し、市街地から近い距離にありますが、山間の雰囲気が楽しめます。奥には竜爪山(りゅうそうざん)があり、登山の帰りに立ち寄る人も少なくありません。
路線バス(しずてつジャストライン)は静岡駅北口6番乗場から出ており、竜爪線・瀬名新田経由「則沢行き」で約40分。バス停「御殿乳母温泉」下車徒歩6分です。
「則沢行き」の直通バスは本数が少ないので要注意です。午前中は1本のみで平日8時10分発、土曜・日曜・祝日は8時15分発となります(2018年11月現在)。それ以外で龍泉荘での日帰り入浴が可能な時間帯のバスは「瀬名新田行き」となり、「瀬名新田」から「御殿乳母温泉」までは、デマンドバス「りゅうそう号」の予約が必要です。また、「御殿乳母温泉」から静岡駅までの直通バスは15時台、16時台に1本ありますが、それ以外の時間はデマンドバス「りゅうそう号」の予約が必要になります。詳しくはしずてつジャストラインの公式サイトでご確認ください。
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