静岡市葵区 桜湯
昭和2年創業のレトロな銭湯を満喫
懐かしいディープな雰囲気に大興奮
かつて庶民の社交場として賑わっていた銭湯は時代の流れとともに減少し、現在ではレアな存在になりつつあります。昭和40年代に350軒以上あったという静岡県内の銭湯は、現在9軒のみとなりました。その中でも静岡市葵区にある「桜湯(さくらゆ)」は井伊湯種(いいゆだね)が静岡出張の際に出会って感動した銭湯です。温泉ではありませんが、「地域のおすすめスポット」として紹介したいと思い、取材させていただきました。
桜湯はJR「静岡駅」から車で7分ほどの距離にあり、駒形通りに沿って築かれた商店街の一角で営業しています。1階が銭湯、2階が男性専用のサウナになっており、入口は別々。それぞれの番台(受付)で入浴料金を支払います。
まずは桜湯の銭湯から紹介します。現在、静岡市内には2軒の銭湯があり、桜湯はその一つです。井伊湯種が仕事を終えてアーケードのある商店街を歩いていたところ、昭和レトロな佇まいにひかれて、ふらりと入ったのが桜湯でした。幼い時から東京下町の銭湯に親しんできた湯種はこうした公衆浴場には郷愁を覚えます。
銭湯で出迎えてくれたのはご主人の小長井 正さんです。96歳になるご主人はとてもお元気そうな様子。今でも家族と交替で番台に座るそうです。
桜湯の創業は昭和2年(1929年)。当時の建物は戦災で全焼してしまったそうです。「兵役を終えて家に帰ってきたけれど、誰もやる人がいなかったから」と小長井さんが家業を継ぎ、バラック小屋の浴場から始めました。当時、なかなかお風呂に入れない人のために毎晩お湯を沸かしたそうです。
現在の建物は昭和45年(1970年)に建て直したもので、50年近くの年月を経ています。昭和の香りがするレトロな感じがたまりません。脱衣所はテーブルセットや鍵式のロッカー、流しなどが備えられていました。ロッカーの上には常連さんのお風呂セットが置かれ、地元の方に親しまれている銭湯であることがわかります。
常連さん専用のミニロッカーや年季の入った体重計もありました。
脱衣所には「長生きしたけりゃ銭湯だぜ!!」と書かれたポスターが貼られており、湯種はこの文言が大好きです。ご主人の元気そうな様子を拝見した時に、まさに「そのとおり!!」と思いました。
シンプルな造りの浴室には深さの異なる2つの湯船が備えられています。男湯と女湯の仕切りにガラスが用いられているのも洒落ていると思いました。湯の温度は適温で、かつて東京の銭湯の熱い湯に入っていた湯種には少し意外でした。
水質が良い安倍川水系の伏流水を沸かしたお湯がやさしく体を包み込みます。この日の薬湯はムラサキ科の植物を用いた「紫根(しこん)の湯」。紫根エキス(保湿成分)が配合されているため、お風呂上がりは肌がしっとり。
洗い場もシンプルでグリーンの椅子や黄色い湯桶が映えます。壁や床のタイルも年季が入っていて良い味を醸し出していました。
洗い場に石鹸やシャンプー、リンスはありませんので、自分で用意する必要がありますが、番台で販売しているので気軽に訪れることができると思います。
湯上がり後はカラカラに乾いた喉を潤したくなるものです。脱衣所の冷蔵庫には牛乳や缶ビール、ソフトドリンクが用意されています。銭湯の定番の牛乳を腰に手を当ててグビッと飲むのも良いですね。
ヘアードライヤーも3分間10円で利用できます。
マッサージコーナーにはレトロなマッサージチェアが2台あり、1回20円で動きます。
アイス専用の冷凍庫も懐かしく、思わず子供の頃の記憶が蘇ります。湯種が子供の頃に通っていた銭湯の入浴料は15円だったと、しみじみ思い出しました。
初めて訪れた時もこうした昭和の香りがするディープさにシビれましたが、今回再訪してさらに堪能することができました。
20年位前に静岡県内の銭湯数を調べたことがありましたが、その時も24軒しかありませんでした。今は残すところ9軒のみ。湯種の住まいの近くにある銭湯(沼津市)も2年ほど前から休業しているなど、大好きな銭湯が年々減っていくのが残念でたまりません。
14時の開店前には常連のお客さまが数人、入口の前で待ちかまえていました。常連客は地元の年配の方を中心に一人暮らしの若い男性もいらっしゃるそうです。ご主人の娘さんが跡継ぎになっているそうですが、桜湯は常連客との間に家族のようなつながりがある銭湯とのこと。いつまでも営業を続けてほしいと思いました。
2階のサウナも昭和の時代にタイムスリップ
2階は桜湯サウナになっており、男性専用です。桜湯のリニューアル時の昭和45年(1970年)に営業を始めました。
更衣室には縦長のロッカーが備えられ、こちらもロッカーの上には常連さんのお風呂セットが置かれていました。ここでもまた懐かしいものを発見。マッサージチェアの横にある健康器具に目が釘づけになりました。
下の写真の右側にある健康器具は腰をベルトでブルブルするものです。一時期、とても流行りました。
久しぶりに見てテンションがアップしましたが、現在は稼働しないとのことで残念。
レトロな雰囲気の浴室には熱いお風呂と水風呂が備えられ、ゆるやかなカーブを描いたデザインの湯船が印象的。床には温かみの感じられるタイルが使われています。
年代物のメトス社製のサウナストーブが備えられたサウナ室ではフィンランド式サウナ(高温サウナ)を楽しむことができます。昭和そのままの設備でタイムスリップしたかのような雰囲気を楽しむことができて素敵です。
10人位入れるサウナ室の温度は90℃〜100℃位。ロビーに掲げられていたサウナの解説には「当サウナで労働によるストレスと疲労を洗流し、神秘的な霊気で、疲れ切った五体を若返らせ、吹き出す汗とともに、体内のあらゆる毒素を駆逐なさってください」という素敵なコメントが書かれており、サウナ効果が期待できそうでワクワクしました。
サウナ室にはテレビがあり、そのリモコンはサウナ室の外に置かれていました。サウナ利用者が自分の好きな番組を選べるのは良いですね。
サウナ室でテレビを見ながらジワジワと汗をかいた後は、洗い場のシャワーでサッと流してから水風呂へ。
水風呂には安倍川水系の伏流水を使っており、やわらかで肌触りが良いのが特色。水風呂の温度表示はありませんでしたが、およそ20℃位だと思います。火照った体に、とても心地よい水風呂でした。
水風呂の次は熱いお風呂で温まりました。熱いお湯と冷たい水による温冷交互浴は疲労を回復させたり、自律神経のバランスを整えると言われています。
そしてまた汗を出すためにサウナ室へ。サウナ後は水風呂に入るという、心地よさの無限ループが楽しめます。
また、お風呂の蛇口に水のカルシウム分などが付着して白いボツボツで覆われていたのが印象的でした。(温泉マニアの間ではこの形状が犬のプードルに似ていることから、プードル状態と言います)。安倍川水系の伏流水はミネラル豊富な水質であることが想像できます。
サウナを満喫した後は浴室を出て休憩室へ。ボーッとくつろぐことができます。
桜湯サウナでも昭和レトロな雰囲気を満喫することができました。ぜひサウナも体験してみてください。
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