湯河原温泉 亀屋旅館
※経営が変わり2023年8月「湯河原温泉 巛湯河原 – Sen yugawaraとしてリニューアルオープンしました。詳しくは公式HP等をご参照ください。
昭和レトロな宿で楽しむ
100%源泉かけ流しの極上湯
温泉マニアが通う魅力的な骨董品が集まる宿
2013年3月からスタートしたスルガ銀行の公式サイト「井伊部長の温泉グルメ探訪」。『地元のよいとこ』を全国に紹介する地域貢献活動として、井伊湯種(いいゆだね)が銀行業務の傍ら週末に取材を続け、ついに300本ものレポートをお届けすることができました!
記念すべき300軒目の記事では湯河原温泉にある亀屋旅館(かめやりょかん)を紹介します。亀屋旅館は湯河原温泉を語るうえで欠かせない宿の一つ。千歳川沿いに広がる温泉場の高台に位置する老舗旅館です。
亀屋旅館へは千歳川沿いの道から1本入った坂道を進みます。温泉櫓(おんせんやぐら)が立っていて、温泉街の情緒がたっぷり。
宿に隣接した駐車場を利用できますが、急坂で道幅が狭いので注意が必要です。また、宿から少し離れますが、大型車専用駐車場もあります。
案内看板に従って、急な坂道を20mほど登ります。
「けっこう急だなぁ」と思いながら歩いていくと、すぐに亀屋旅館の看板と建物が見えます。
亀屋旅館は自家源泉を2本所有し、100%源泉かけ流しを楽しめる宿。こだわりの湯遣いと昭和レトロな雰囲気で温泉マニアに人気の宿です。レトロな温泉施設が大好きな井伊湯種(いいゆだね)は、外観を見ただけでワクワクします。
玄関に入った途端、昭和の時代にタイムスリップしたような感覚に陥りました。玄関には亀や達磨の置物、鹿の剥製などが置かれ、昭和レトロのディープな雰囲気を醸し出しています。
亀屋旅館の創業は明治18年(1885年)。130年以上も続く、老舗の湯宿です。常連の方が図書館で調べて持ってきてくれたという江戸時代の資料には当時の館主の名前があり、宿としての歴史はもっと古いようです。
ロビーの一角には古い写真や昭和レトロな調度品などが飾られ、ノスタルジーが感じられる空間になっています。気さくなオーナーが一つずつ、丁寧に解説してくれました。
亀屋旅館には温泉マニアだけでなく、アイルトン・セナをはじめ、ジャッキー・スチュワート、ナイジェル・マンセル、スターリング・モスなどの有名なF1レーサーも数多く来館しているそうです。湯河原温泉には国木田独歩や夏目漱石などの文人が訪れていたことで知られていますが、有名レーサーまで訪れているとは意外でした。以前はセナのヘルメットやジャンパー、帽子などを飾っていたそうですが、残念なことに盗まれてしまったそうです。
また、初期のダイナースクラブカードの看板も亀屋旅館自慢のアイテムの一つ。1960年代のもので、今ではとても貴重なものだそうです。
ロビーの奥に売店があり、看板には「旅の想ひ出」と書かれていました。
その奥には飲み物の自動販売機コーナーがあり、その佇まいがとてもレトロな雰囲気でした。かつてはカウンター・バーだったようです。
カウンターには自由に使える電子レンジが置かれていました。素泊まりの時に持ち込みのお弁当などを温められるので便利ですね。
自動販売機をチェックすると、缶ビールが良心的な値段で用意されていました。
また、初期型のテレビも置かれていて、ときめきを感じます。
この古き良き昭和感を活かし、テレビやCMなどの撮影場所としても貸出しているため、多くの芸能人も訪れているそうです。
「温泉遺産を守る会」認定の源泉かけ流し風呂
亀屋旅館では自家源泉2本を所有しており、1本は宿から800メートルほど離れた源泉郷に湧く湯河原55号泉(亀屋第1源泉)、もう1本は敷地内から湧出する湯河原127号泉(亀屋第2源泉)です。2つ合わせて湯量は1分間に160ℓ。1日にドラム缶1,200本ほどの湧出量になるそうです。湯河原温泉随一の湯量を誇り、宿の大浴場とすべての客室風呂、ペット専用の貸切露天風呂などで、贅沢にかけ流しで使用されています。それでも湯量が多いため、他の宿や近隣のリゾートマンションなどに配湯しているそうです。
亀屋旅館では加水・加温・消毒なしの100%源泉かけ流しが楽しめます。約80℃の高温度の源泉ですが、湯船に投入する量を調整しながら湯を貯めていき、加水せずに適温にしているそうです。古くから100%源泉かけ流しにこだわった亀屋旅館の源泉風呂は、平成15年(2003年)に「日本温泉遺産を守る会」から温泉遺産として認定されました。
ワクワクしながら大浴場へ。殿方風呂は1階にありました。
脱衣所はシンプルな雰囲気。青いスチール棚に脱衣籠が用意されていました。
脱衣所には飲泉所が設けられ、亀屋旅館の源泉を味わえるようになっています。湯河原温泉で飲泉ができるところは少ないので、とても貴重ですね。
また、貴重品は鍵付きロッカーに預けられるようになっています。
昭和30年(1955年)頃に作り直したという浴室は、中に入ると、いきなり5本の柱が立っていてびっくり。柱の隙間から湯船が見えるという趣向を凝らしたデザインです。さらに全体的に貼られた昭和のタイルが凝っていて感動を覚えました。特に壁面や柱の細かいタイルのグラデーションが美しく、当時のタイル職人のこだわりが感じられます。両面の窓から太陽の光が入り、まばゆい雰囲気も素敵でした。
ユニークな形の湯船に入ってみれば、温泉独特の良い香りに包まれました。お湯には鮮度が感じられ、さすが100%源泉かけ流しですね。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉。石膏分(カルシウム-硫酸塩)が含まれた食塩泉ですが、強めの塩味ではなくてほのかに感じられる程度で、無色透明のやさしい肌触りのお湯です。この泉質は湯河原温泉で最も多いもので、よく温まり、切り傷などに効くと昔から言われています。
球形の湯口からは地下264mから湧出する亀屋第1源泉(湯河原55号泉)が注がれ、湯口の周りには白いカルシウムなどの析出物が付着していました。これは源泉の成分が固まったもの。温泉マニアの井伊湯種は、こうした析出物を見ただけでうれしくなります。
敷地内から湧出する亀屋第2源泉は昭和35年(1960年)頃に掘られたとのこと。第1源泉をメインに使っており、第2源泉は予備として使っているそうです。
弱アルカリ性のお湯はお肌ツルツル系。美肌効果の目安となるメタケイ酸も多く含まれている美肌の湯です。昭和レトロな浴室で極上の湯河原温泉を堪能できて、大満足の湯種でした。
チェックアウトの朝10時にお湯を抜き、清掃をしてから源泉の投入量を調整しながら湯船にお湯を貯めていくため、適温になるのは15時頃。それでも熱めのため、一番湯に入る常連の方は湯もみ棒で調整して入浴するのだとか。そんなおおらかな感じも良いですね。
こうした湯遣いの良さで全国から温泉マニアが訪れている亀屋旅館。湯治目的で北海道から毎月訪れるお客さまもいらっしゃるそうです。湯河原温泉自体が万葉集でも歌われた歴史のある良質な温泉で、亀屋旅館は100%源泉かけ流しですから、湯治にもぴったりですね。
お風呂上がりは肌がツルツルになるだけではなく、温泉の良い香りが肌に残り、余韻を楽しめました。脱衣所には2つの洗面台とレトロな鏡台が備えられています。休憩用の椅子が置かれていたり、化粧水や乳液などのアメニティが充実していました。
2階にある婦人風呂は殿方風呂とはデザインが異なり、レンガタイプのタイルが使用されたレトロモダンな雰囲気でした。かつては大正時代のタイルが貼られていたとのこと。湯船は縁起が良いと言われる末広がりの扇形です。この形の湯船は歴史のある木造建築の宿で見かけることがあります。古いものが大好きな湯種はこうした湯船を見ると、しみじみとした気分になります。
ケロリン桶が置かれた洗い場はほのぼのした雰囲気が漂います。黄色いビタミンカラーはいつもながら浴室の素敵なアクセントになっていますね。
昭和・大正時代の面影を残す建物にうっとり
昔ながらの風情あふれる館内は、手入れが良く行き届いています。
亀屋旅館の総客室数は20室。このうち現在は9室が使用されており、金曜・土曜・日曜日のみ営業しているそうです。昭和・大正時代の佇まいが残る客室の内風呂でも源泉かけ流しを楽しむことができます。
客室の廊下には、昔の職人さんが作ったという見事な擬木(ぎぼく)がありました。木のように見えますが、石で作られているそうです。
建物が斜面に立てられているため、館内は少し複雑な構造になっており、奥行きがあります。
かつて屋根に載っていた「亀」の字が入った鬼瓦(おにがわら)が置かれていました。こうした古い鬼瓦も愛好家の間ではとても人気があるものだそうです。
3階にはピンポン室(卓球室)がありました。元々はダンスホールだったという室内には卓球台をはじめ、古いピンボール台や健康器具も置かれ、懐かしい雰囲気を楽しめます。時代が感じられるソファーも置かれていて、良い味を出しています。温泉に入ったあとに、こんなレトロな室内で卓球を楽しんでみたいと思いました。
昭和の時代に作られた手書きの温泉案内も味わい深いものがありました。
看板猫がいる宿には
ペット専用貸切露天風呂があります
館内を案内していただいているときに、どこからともなく、するりと猫が現れました。旅館の飼い猫のクーちゃんです。思いがけない出逢いに、猫好きの湯種は大興奮。
いつでもお客さまの前に姿を現すわけではないらしいのですが、この時はロビーまで出てきてくれて、チェックアウトをするお客さまの足にスリスリするなど、愛嬌をふりまいていました。猫がいるだけで和んでしまいます。ますます亀屋旅館が気に入ってしまった湯種でした。
また、亀屋旅館は「ペットにやさしい温泉宿」としても知られていて、犬や猫と一緒に宿泊することができます。夜の就寝前やペットのみを部屋に残す場合は、サークルまたはケージなどに入れる必要がありますが、忘れてしまった場合は有料でレンタルもできるそうです。
さらにうれしいことに、ペット専用の貸切露天風呂も用意されています。こちらも100%源泉かけ流し。ペットだけでなく、飼い主も一緒に入れます。
元々犬好きなオーナーがペット専用の露天風呂を作ったのは30年くらい前とのこと。国際的な愛犬団体の関係者が新年会で亀屋旅館を訪れたときに「人間はお風呂に入れて楽しいけれど、犬も入れるお風呂を考えて」というリクエストがあり、それに応えるため作ったそうです。
「最初は洗濯場に小さなペット用のお風呂を作ったのですが、どんどんエスカレートして本格的な露天風呂になりました。そのうち露天風呂に落ち葉が入るのが嫌で、屋根を付けました。最初は柵もなかったんですよ」とオーナーが楽しそうに語ります。
ペット専用貸切露天風呂は、予約制で有料での利用になりますが、1回使用ごとに温泉の入替えと掃除をするそうですので、とても衛生的だと思います。
湯種もイチオシ!
車とタンクを借りて源泉を購入できる
豊富な湯量を誇る亀屋旅館では一般向けにも源泉の販売を行なっています。宿に隣接した駐車場に温泉スタンドが備えられ、20ℓ/1,000円、1t/5,000円で販売されています。
オーナーから「温泉を買いに来るお客さまに、温泉のタンクを積んだトラックごとお貸しすることがあります」と伺い、びっくり。車とタンクを借りて源泉を買えるのは、とてもめずらしいと思いました。日本全国でもここだけではないでしょうか。
湯河原で素晴らしい湯遣いの温泉と昭和レトロな雰囲気を満喫できる亀屋旅館。旅館業のほか、スポーツカーの販売も手がけているオーナーと車談義も弾み、楽しい時間を過ごすことができました。次回は車好きの温泉友だちと訪れ、亀屋旅館の魅力をゆっくり味わおうと思います。
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