陶芸の宿 はなぶさ 伊豆長岡温泉
陶芸の宿 はなぶさは閉業しました。
陶芸と美食、伊豆長岡温泉が楽しめる宿
美術品のある空間でゆったり過ごせます
静岡県伊豆長岡にある「陶芸の宿 はなぶさ」を訪ねました。井伊湯種(いいゆだね)がこの宿に宿泊するのは今回で3度目。陶芸体験ができ、伊豆長岡温泉と地元の食材を使った趣向を凝らした料理を堪能できる宿です。
伊豆長岡温泉の街中にあり、長岡交差点の近くに位置する「はなぶさ」。館内に一歩踏み入れれば、落ち着いた空間が広がります。
玄関正面では2体の鎧兜が出迎えてくれました。室町時代に実際に使われていたもので「はなぶさ」に代々伝わるもの。展示ケースの中に鎧兜のほかには先代が集めたという刀や絵画なども飾られていました。
昭和31年に7室の旅館として開業し、現在は全20室。館内は昔の風情を残し、どこか懐かしさが感じられる雰囲気です。
館内には陶芸教室「源氏窯」を併設しています。35年ほど前にお茶を習っていた先代が抹茶茶碗をつくりたいと思ったことが陶芸教室を始めるきっかけでした。当時は伊豆の中で陶芸ができるところはほとんどなかったそうで、カルチャーブームの先駆けとも言える文化の香りがする宿を目指したそうです。
館内の至るところには先代が30年かけて収集した美術品が展示され、ギャラリーのようになっています。古美術品をはじめ、さまざまな産地の焼き物や朝鮮李朝期の箪笥など、見どころがたくさん。ほとんどの作品には解説が付いているので、美術館のように鑑賞できるところも良いですね。
また、美人画で知られる竹久夢二の展示コーナーもあります。宿の館内で、作品を鑑賞できるのは貴重な体験です。その中には猫を抱いた女性を描いた作品もあり、猫好きな湯種はうれしくなってしまいました。
階段の窓の意匠も素敵です。館内にさまざまな「美」がちりばめられている「はなぶさ」。自分のお気に入りを見つけることも楽しいと思います。
身体にやさしい伊豆長岡温泉を満喫
アルカリ度の高い美肌の湯
前回、「はなぶさ」に訪れた時は両親や妻と4人で宿泊しました。伊豆長岡温泉は刺激の少ない身体にやさしいお湯のため、年老いた両親を連れていくのに最適だと考えたからです。
「はなぶさ」には男女別の大浴場(入れ替えはありません)と空いていれば何回でも入れる無料貸切家族風呂があります。畳敷きの休憩・待合スペースにそれぞれの浴室の入口があります。
休憩・待合スペースは中庭に面し、外の景色を眺められるように椅子が置かれています。
ふと周りを見渡すと、可愛いカエルの姿が目に留まりました。部屋の隅にさりげなく置いてありましたが、こちらも地元の陶芸家の作品です。
脱衣所はシンプルな雰囲気。脱衣籠の下の棚にそれぞれ鍵付きのルームキー入れが備えられていて、便利だと思いました。
広々とした内湯は大きな窓に面しているため、明るく開放感があります。
窓の外の露天風呂を眺めながら、まずは内湯で伊豆長岡温泉を楽しみます。泉質はアルカリ性単純温泉。伊豆長岡温泉の源泉はpH9.1とアルカリ度が高く、美肌の湯と言われています。少しヌル付きのあるお湯はやわらかで、肌にスベスベ感を感じました。身体を包み込むお湯がとても心地よくて長湯がしたくなります。
湯口の大きな石の上には信楽焼の狸の焼き物が寝そべっていました。このほのぼのしている姿がたまらないですね。
伊豆長岡は早い時期から全国に先駆けて温泉の集中管理を行ない、源泉の有効活用をしています。「はなぶさ」は、もともと源泉を2本持っているため、豊富な湯量を確保。湯口から常にたっぷりと源泉が注がれています。
露天風呂は内湯よりも温めでした。通り抜ける風が心地よく、温泉にじっくり浸かっていると心身ともに日頃の疲れから解放されていきます。
また、大浴場は、客室の収容人数に対して広い造りになっています。そのため、ゆったりとお風呂を楽しむことができると思います。
女湯の露天風呂には丸型の檜風呂
女湯の内湯は男湯と同様な造りになっています。
女湯の露天風呂には檜造りの丸い露天風呂があります。見た目や手触りも温かみがあり、リラックスできそうですね。
さらに岩造りの露天風呂もあります。女湯では湯船の異なる2つの露天風呂を楽しむことができるので、「少しうらやましい」と思った湯種でした。
空いていればいつでも入れる貸切家族風呂
大浴場の近くに貸切家族風呂があり、空いていればいつでも入れます。予約の手続がいらないのが良いですね。大浴場よりお湯の温度が高めでお湯の鮮度も感じました。小さなお子さま連れのご家族やカップルの方など、水入らずで伊豆長岡温泉を楽しめると思います。
客室は5パターンほどあり、好みや人数に合わせて選べます
はなぶさの客室は全20室。客室は5パターンほどあり、好みや人数に合わせて選べます。その中でも人気があるのは露天風呂付き客室で2室を用意。今回、井伊湯種が宿泊したのは、露天風呂付き客室「松風の間」。和室16.5畳に茶室が付いた和室です。
昔ながらの和室は風情があり、落ち着ける雰囲気。やはり畳のある空間は良いですね。床の間には絵画や陶器が飾られ、室内でも美術鑑賞ができます。
窓からは中庭を見下ろすことができます。中庭には池や藤棚があり、取材時には藤の花が咲き始めていました。
4畳半の広さの茶室があり、その入口にはお茶の道具が飾られています。先代の茶道に対する思いが反映されている客室ですね。
今でこそポピュラーになった露天風呂付き客室ですが、はなぶさでは伊豆半島の中でも早い時期に導入。ゆったりとした陶器の湯船が備えられ、源泉かけ流しを楽しむことができました。
同じく露天風呂付き客室「蘭の間」は2つの陶器の湯船を備えています。かつて湯種はこの客室に泊まった記憶があり、2つの湯船があるのがとても印象的でした。「熱めが好き」「ぬるめが好き」など、お湯の温度の好みはさまざまですから、それぞれが自分の好みに調整することができ、それでいて一緒にお風呂に入っているというような一体感が味わえる素晴らしい露天風呂です。
広さ10畳の「蘭の間」にはゆったりとしたツインベッドを設置。
和室でありながらも「ベッドを利用したい」というお客さまの要望に応えた客室になっています。
10畳の一般客室も美術品のある空間になっており、静かに過ごせる空間です。
撮影をした一般客室入口前には猫のブロンズ像が置かれていました。猫がお出迎えしてくれるような楽しさがあり、猫好きの人は思わずテンションが上がってしまうと思います。
客室の冷蔵庫にはミネラルウォーター500mlが1人につき1本入っており、無料サービスになっていました。
館内には缶ビールの自動販売機があり、良心的な価格販売。レトロな雰囲気の牛乳の自動販売機もありました。
また、「はなぶさ」の近くにはコンビニエンスストアがあり、何かと便利です。
また、ロビーと2階廊下にはたくさんの書籍を用意しており、自分の部屋に持ち帰って読むことができます。
黒糖温泉まんじゅう「ひと花」は自家製造です!
客室に入った時にテーブルに置かれていた温泉まんじゅう「ひと花」は、はなぶさの自家製造。黒糖を用い、生地にはしっとりとしたモチモチ感があり、甘さは控えめ。通常の3倍の蒸し時間でじっくり蒸し上げることで、独自の食感が出るそうです。餡には北海道産の小豆とザラメを使用。伊豆長岡温泉は過去に「温泉まんじゅう日本一」宣言をするほど、狭いエリアにいろいろなお店があり、店ごとの味わいが楽しめます。伊豆長岡で黒糖を使用しているのは「ひと花」だけだと思いますので、ぜひ味わってほしいと思います。
黒糖温泉まんじゅうや地元の作家作品を扱う店舗を併設
はなぶさ正面入口右手に黒糖温泉まんじゅう「ひと花」を販売している店舗があります。温泉まんじゅうのほかにも、陶芸品など地元の作家の作品や伊豆のお土産なども販売しています。
さまざまな地元作家の作品の中でも目を引いたのは「イズブルー」と言われる陶芸品。陶芸家・天野雅夫氏が伊豆の国市花坂の土を使った作品です。この陶器の美しい青色は釉薬の色ではなく、コバルトを含んだ土質が高熱で発色するそうで、とてもめずらしいと思いました。自宅で使っても良さそうですし、お土産にも喜ばれそうです。
また、「はなぶさ」の陶芸教室を監修する先の作品も販売されていて、素朴で温かみのある作風が素敵でした。
サイクルステーションとしても利用できます
自転車愛好家の方向けの情報になりますが、「はなぶさ」はサイクルステーションとしても利用でき、屋外と館内(ロビー)にスタンドを用意しています。トイレ休憩など、ちょっとした休憩に利用できるそうですので、気軽に立ち寄りたいですね。
湯種もイチオシ! 旅の思い出に陶芸体験
「はなぶさ」では宿泊者に限り、館内に併設された陶芸教室「源氏窯」で陶芸体験ができます。5日前までに予約が必要で、1人3,600円で体験できます。申し込み人数は2人以上からで1人での参加はできないとのこと。
井伊湯種も陶芸体験にチャレンジしました。湯種は「はなぶさ」での陶芸体験は2回目。前回は両親と体験し、当時は元気だった父が楽しそうに器をつくっていたことを覚えています。
陶芸体験の所要時間は2時間ほど。エプロンは貸してくれますので、手ぶらでOK。陶芸は初めてという方もイチから丁寧に先生が教えてくれるので安心です。
土は1kg用意され、たとえば湯呑みなら2個つくることができます。
ビール好きの湯種はビアマグをつくることにしました。まずは適量の土を丸めてお団子状にし、手回しろくろの上に置き、手のひらでつぶして器の底の部分をつくります。
次に丸めた土をテーブルの上で転がし、ひも状にします。
器の底の部分にひも状の土を重ね、土台づくりをします。
さらにひも状にした土を重ねていき、器の形をつくっていきます。
形を整えながら、器の内側のデコボコしているところを平らにしていきます。我ながら凄い集中力。子供の頃の粘土遊びを思い出しますね。
だいたいの形が整ったところでナイロン糸を用いて手回しろくろから器を切り離します。
器を逆さにし、外側のデコボコを平らにしたり、器の高さなどを調整していきます。
形が整ったところで、器の飲み口の高さを均等にするために、道具を用いて余分な土を切り取ります。一番低いところにあわせるのがポイント。
次は器に模様をつける作業です。
簡単に模様がつけられる道具が揃っていましたが、竹串を用いて「井伊湯種」と自分の名前を入れました。
温泉マークもしっかり記入。
ちなみに形押しを用いれば、こんな可愛い模様も簡単につけられます。
ビアマグの成形が完了! 器の飲み口はわざと均等にせずに味のある仕上げにしてみました。
器の成形後、4種類の釉薬から好みのものを一つ選びます。釉薬とは成形した器にかける薬品のこと。湯種は「黒」を選択しました。
あとの行程は先生にお任せして自宅で作品が届くのを待ちます。
このあとの行程は水気を抜くために3週間陰干しにするそうです。それから窯に入れて素焼き、本焼きを経て完成とのこと。
手元に届く目安は1.5か月〜2か月ほど。宅急便で送ってくれます(送料は別途必要 900円〜)。
以下は届いた作品です。重厚な感じに仕上がっていて大満足。自分が作った器で飲むビールの美味しさは格別でした。
陶芸体験をしているときは無我夢中で頭が空っぽになり心地よかったです。「2時間何も考えない時間というのはふだんの生活ではなかなかないと思います」とご主人。まさにその通りで、土にふれていると穏やかな気分になりますし、何よりもモノづくりの楽しさを味わうことができました。
開始時間が決まっており、午前は10時〜、午後は13時〜、14時〜、15時〜です。旅の良い思い出になりますので、「はなぶさ」での陶芸体験、おすすめです。