西伊豆 桜田温泉 山芳園
「本物の温泉」に対する情熱に感動!
全てにご主人のこだわりが感じられる一軒宿
今回、井伊湯種が訪れたのは、西伊豆・松崎町にある一軒宿「桜田温泉山芳園」。海岸線からは車で5分位の内陸に位置しています。以前からこの近くを通るたびに気になっていましたが、ようやく訪れることができました。「山芳園」は「日本秘湯を守る会」に加盟しており、「源泉脈かけ流し」が有名で、温泉マニア憧れの湯宿なのです。
目の前にのどかな田園風景が広がリ、 風情ある佇まい。
静かに秘湯を楽しめる!
東名高速道路沼津インターから70Km。車で海岸沿いから内陸側に入り、田園が見えてくると、ほどなくして「山芳園」に到着しました。旅館の目の前には、のどかな田園風景が広がり、春になればレンゲの花でピンクに染まり、美しい眺めを楽しめるそうです。
外観は風情ある佇まいで、西伊豆らしいなまこ壁は黄綬褒章を受けた松崎の名工が手がけたものだとか。左手に松崎伝統の蔵造りによる離れがあり、右手が本館への入口です。スロープが設けられていて、こちらはなんとご主人の吉田さんの手づくり。十和田石や伊豆石など、こだわりの原石をトラック一台分も購入して作ったというから驚きました。
玄関横には源泉が飲める「飲泉処」が設けられています。源泉を味わうのも温泉の愉しみのひとつ。保健所でしっかり許可を取得し設置されているため、安心して飲めるところもポイントが高いです。
10室すべてが異なる造りで
個性的シンボルの「木の蔵」は スゴイ!
山芳園の開業は 1980 年。もともとみかんを作っていましたが、自 家源泉を利用して旅館業をスタートしたそうです。景勝地ではない ため、個性的な宿を目指し、最初は維持費のいらない別荘をコンセ プトに 5 室で営業。その後 8 年かけて改築して完成したのが 1995 年で、現在の 10 室となりました。各室は、それぞれ実際のお客さ まを想定して造ったのだとか。そのため、10 室すべてが異なる造り で、露天風呂付き客室だけでなく、部屋のタイプは各種あります。
私が宿泊したのは山芳園のシンボルとも言える「木の蔵」。「石の蔵」 と共に離れにあり、メゾネットタイプのお部屋です。木の温もりが 感じられる素晴らしいお部屋でした。数寄屋造りで天城山の松の原木や、翌檜(あすなろ)などの素材を使い、畳は琉球表を採用。良い素材が手に入らず 2 年間工事をストップしたこともあるそうです。 「100 年かけて元を取れればいい」と豪快に笑うご主人のこだわりが、 鶴をモチーフにした筆柱や飾り釘等々、インテリアの細部にまで感じられました。
部屋の露天風呂から、鯉を眺められる!
斬新かつ至福の温泉タイム
木の蔵には露天風呂が付いており、なんと池の鯉を水中から観察で きる驚きの構造でした。鯉を眺めながら極上のお湯に浸かれるという、温泉好きにはたまらない時間を過ごせます。 ご主人曰く「もともとは障害のあるお子様がご家族と一緒に温泉を楽しめるように、部屋に露天風呂をつくりました。車イスが移動しやすいように設計してあります」。
最初は鯉に嫌われてしまったのか、湯船に入ると逃げられてしまい、ショック。手を振ったり、手を叩いたりしているうちに、鯉が寄ってきてくれて感激です。水族館のようでもあり、子どもは大人以上に楽しい時間が過ごせると思います。
ご主人の並々ならぬ、お湯へのこだわり
特に冷却システムに感動!
「源泉かけ流し」や「源泉100%」の温泉はよくありますが、お湯の鮮度にこだわり、源泉そのものと言える「源泉脈かけ流し」に入れるところは日本中でも少ないかもしれません。それを実現したのは、ご主人の温泉に対する情熱なのです。唐草天井の総檜風呂や泳げるほど深い露天風呂など、入れる湯船には全部入って、お湯の違いを比べるのも楽しいと思います。
私が感動したのは、ご主人の並々ならぬ、お湯へのこだわりでした。「本物の温泉」とは、源泉を薄めず、沸かさず、循環させずに湯船に注いでいることですが、温泉の鮮度までもこだわっているところは、あまりないのではないでしょうか。
源泉は空気にふれたり、水を加えることなどで劣化してしまいますが、山芳園さんでは独自の給湯システムで、源泉脈を湯船まで直結したまま冷却し、湧き立てそのものを味わえます。これはとてもスゴイことで…。つまり、温泉を劣化させない3つの要素「空気に触れさせない」「水を加えない」「圧力を抜かない」を実践し、地中から湧きたての状態を湯船に存分に注いでいるのです。源泉は72°C以上もありますから、温泉を流し入れるパイプに蒸気を噴射し、気化熱を利用してお湯を適温に冷ましているのだとか。ご主人が温泉専門家と協力し、試行錯誤の上に開発したという冷却システムに感銘を受けました。
ぜひ機会がありましたら、源泉100%の本物の温泉をぜひ体験してほしいと思います。また、お湯は毎日入れ替えているので、とても清潔です。
内湯の「檜風呂」には絶対入るべし!
まろやかなお湯でお肌がスベスベに
源泉に最も近く、一番良いお湯に仕上げてあるというのが大浴場(内湯)の「檜風呂」。唐傘天井で木の温もりを感じます。男風呂には熱めとぬるめの浴槽があり、さっそく入ってみました。私はぬるめの温度でじっくり入るのが好きなので、選べるのはうれしいかぎり。微かに硫黄の香りのするお湯は、とてもまろやかで肌触りが違います。お湯のやわらかさには驚きました。聞けば、温泉をなるべく空気にふれさせないように、あえて温泉を底から注いでいるとのこと。気になるpHは8.6。硫酸塩泉のため、特に傷や美肌などに良いそうです。
また、女風呂には「檜風呂」は一つだけですが、そのかわりに好みの温度や深さを選べる洞窟室岩風呂があります。源泉を直接飲める 飲泉所も設置してあるそうです。
このほかにも予約なしで入れる貸切家族風呂があります。
広くて深い貸切大露天風呂、思わず泳ぎたくなる!
夜の露天風呂に入ってみました。露天風呂にもご主人の深いこだわりが。ご主人曰く、「まだ山芳園に露天風呂がなかった頃の話なのですが、台風が来て海にも山にも出かけられず、お客さまのお子さまがションボリしていました。そこで檜風呂にお湯をたくさん張って遊ばせた時に、とても喜ばれたのです。露天風呂をつくるときは子どもが泳いで遊べるようなお風呂をつくろうと思いました」
そのため、一番深いところで98センチに設計されています。とても広くて開放的なため、大人でも泳ぎたくなってしまいます。しかも混浴の中で移動する時にも都合が良い深さなのだとか。また、長く入ってられるようにいろいろ工夫がされていて、お湯の中でもたれかかったり、座る時など、自分にしっくりする石も見つかります。半身浴や全身浴も思いのままで、あきることがありません。
もともとは混浴の大露天風呂でしたが、2018年2月3日から貸切で利用できるようになりました。
私は夜空の月を眺めながら、日頃の疲れを癒すことができました。ああ、良い湯だな。
山芳園のテーマが「メンタル・リフレッシュ」というのも大いに頷けます。