静岡市 油山温泉 油山苑
山あいの宿で油山温泉と料理を楽しむ
静岡市街から一番近い温泉旅館
油山温泉(ゆやまおんせん)は、静岡市内を流れる安倍川の中流に流れを注ぐ油山川(ゆやまがわ)の源流の近くにあり、静かな山あいに位置する今川氏ゆかりの温泉地です。現在は2軒の温泉宿があり、その1つの油山苑(ゆやまえん)を訪ねました。静岡駅から車で30分ほどのところに位置し、静岡市街から一番近い温泉旅館です。
静岡市街から車で県道27号線を走り、安倍川にかかる橋を渡ると、急に山里の風景に変わったのが印象的でした。空気感までもガラリと変わり、道路沿いには茶畑の風景も見えてきます。
1本道を進むにつれ次第に山あいの雰囲気が濃厚になっていき、それからほどなくして油山苑に到着しました。
ロビーは吹き抜けになっており、開放感があります。掃除が隅々まで行き届いた館内には何やら良い香りが漂っています。
その香りの正体はお茶でした。緑茶の茶葉を炊いている宿はありそうで、なかなかないかもしれません。お茶処の静岡らしさが感じられ、お茶の香りでリラックスできるのが素敵でした。
女将と若女将にお話を伺いました。油山の集落では、昔はお茶とみかんを栽培して生活をしていたそうです。今では車で30分ほどの静岡市街へ働きに行くようになり、農業は兼業でやっている人がほとんどとのこと。
「もともとは茶畑だった土地で油山苑の営業を始めたのは53年ほど前になります。それまでは油山温泉の温泉宿は元湯館さんが一軒あるのみでした。元湯館さんから『うちの宿から温泉を引いて旅館をやらないか』というお話があり、宿を始めました」と女将が開業の経緯を語ってくれました。
油山苑のコンセプトは、温泉に入って美味しい料理を食べて、のんびりとしていただくこと。安倍川を渡ると急に山の雰囲気が変わるため、常連客から結界があるのではないかと言われているそうです。若女将からは、「お客さまからは、いつもザワザワしたところで生活しているので、こうした山あいの宿でゆっくり過ごせて凄く良かった、と言われることが多いです」とのこと。
今川義元の母、寿桂尼(じゅけいに)が訪れた温泉地
油山温泉の歴史は古く、今から450年ほど前の戦国時代に遡ります。京都の公家出身の寿桂尼(じゅけいに)は正室として、駿河の今川氏親(うじちか)に嫁ぎました。氏親亡きあと、幼年の氏輝(うじてる)、義元(よしもと)の後見として政治をつかさどり、女戦国武将とも呼ばれていたそうです。そんな寿桂尼が疲れを癒しに訪れたのが油山温泉であり、京の公家、山科言継(やまなしときつぐ)の日記『言継卿記』にその様子が記載されています。
寿桂尼は温泉だけでなく、油山の美しい自然も愛したと言われています。宿の周辺は今でも深山の雰囲気が漂い、初夏になると蛍が舞う幻想的な光景が見られます。
油山苑では、そんな由緒ある油山温泉が楽しめます。
お風呂は浴室棟にあり、風情のある渡り廊下を進んでいきます。
浴室棟には男女別の内湯と露天風呂があります。
こちらは男湯です。茶系のシックなトーンの浴室は落ち着ける雰囲気。大きな窓からは露天風呂が見え、開放的です。
油山温泉は古くから万病に良いということで湯治に利用されてきました。実際に入ってみれば、クセのないやさしいお湯です。もともとは元湯館の源泉を利用していましたが、現在は油山集落にある別の源泉から引湯をしているそうです。その源泉名は「元湯 静岡油山1号」と言い、100年位の歴史があるとのこと。思わず、その源泉の場所を訪ねたいという衝動にかられました。約16℃の弱アルカリ性の冷鉱泉を加温して使っています。
露天風呂は野趣あふれる岩風呂でした。油山温泉の豊かな自然に囲まれて楽しむ温泉は格別です。
寝そべって空を見上げると、日頃の疲れがたちまち消えていきますね。夜は星空もきれいに見えると思います。
女湯は男湯と同様の造りになっており、内湯には24時間入れます。
露天風呂の利用時間は15:00〜22:00。季節によって時間を変更することもあるそうです。
脱衣所には昔ながらの脱衣籠が置かれていました。
脱衣所に置いてあった体重計がレトロで印象的でした。湯種はこうした年代を経た古いものが大好き。温泉宿を訪ねる時の楽しみの一つになっています。
また、この取材の翌週に露天風呂の改修工事が行なわれ、露天風呂の一部に「浅瀬湯」と名付けた箇所を作り、雨風がしのげる屋根を取り付けたそうです。現在は、さらにくつろげる空間になったようです。(詳しくは宿のホームページの新着情報をご覧ください)
静岡らしさを意識した会席料理が好評
油山苑の客室は全10室。7.5畳から14畳までさまざまな大きさの和室があり、窓から油山の四季を眺めることができます。案内していただいた別館1階の客室は4〜6人用。大きな窓に面していて、とても開放的です。こんな客室で畳にゴロンと寝転び、緑の眺めを楽しめば、日常ではなかなかできない、ゆったりとした時間が過ごせそうですね。
また、油山苑で楽しみなのが料理です。女将からは「建物は古いけれど、料理が美味しかった」というネットのコメントが多いとのこと。
「油山苑では首都圏や中京圏からのお客さまが多いことから、旬と静岡らしさを意識した日本料理をお出ししています。素材としては、海の幸でしたら生シラスや桜海老、地魚、つぶ貝、『ながらみ』という珍しい貝などを使っています。朝食には静岡名物の黒はんぺんのフライやまぐろのカマなどをお出しするようにしています。野菜については、できる限り生産者から直接仕入れることを心がけており、たとえば11月ですと、地元で採れたとろろ芋や里芋などを使っています。板前は私の主人なのですが、京都で修業をしており、季節の素材を活かして作る会席料理をお楽しみいただけます」と若女将。
静岡は食材の宝庫。料理に使われる素材の名前を聞いただけでも美味しそうでワクワクしてしまいました。こんな静かな山の中で静岡の食材をふんだんに使って、一つひとつ丁寧に仕上げられた会席料理を楽しめるのは素敵です。ご主人は「静岡県ふじのくに食の都づくり仕事人」として表彰されており、料理の実力についてはお墨付きですね。
夕食・朝食は畳に椅子テーブル、衝立を配した食事処で楽しめます。緑が見える、ゆったりとした空間で静岡ならではの味わいを堪能できます。
また、日帰り入浴はありませんが、食事とお風呂を楽しめる会食のプランがあります。料金は昼席1人5,000円〜、夜席1人6,000円〜。10人前後で予約を受付けているそうです。
大人の合宿も人気
油山苑のお客さまは個人利用が6割位とのこと。静かな場所で練習に専念できるため、スポーツや音楽などの合宿利用が4割位だそうです。スポーツでは水泳やサッカーチームの利用が多く、音楽ではコーラスや吹奏楽、マンドリン演奏者など。油山苑の近くには音楽堂があり、そこで音出しができるそうです。こうした合宿利用は口コミで広まり、スポーツや音楽合宿のほか、最近増えてきたのは大人の趣味の合宿です。たとえば、静岡市は模型の街のため、市内でのイベント開催時には全国から模型ファンがやって来て、その際に油山苑に宿泊するのだそうです。模型合宿とはユニークですが、なかなか楽しそうですね。
若女将もイベントを通して静岡の縁を感じているようで、「昨年10月は毎週のように大人の合宿の方からの予約が入りました。これまでビジネスホテルを利用していたお客さまが当館を利用してくださったり、静岡は縁でつながっているところがありますので、口コミや紹介等は本当にありがたいです」とのこと。
自転車愛好家も安心して宿泊できます
歴史ある油山温泉と静岡の食材を使った会席料理が楽しめる油山苑。温かいおもてなしを受け、のんびりと過ごせる宿です。静岡市街からも近いですので、利用しやすいと思います。
自転車は玄関やロビーに置くことができて、サイクルスタンドも用意。先日もトライアスロンをやっている人たちが宿泊したそうです。自転車愛好家の方もぜひ油山苑に訪れてみてください。
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