三養荘 伊豆長岡温泉
見事な日本庭園と数寄屋造りの憧れの宿
本館は国の登録有形文化財、
新館は近代建築の巨匠・村野藤吾設計
伊豆長岡温泉の中でも東側の古奈地区に位置する三養荘(さんようそう)。旧岩崎家別邸がルーツの三養荘は、井伊湯種(いいゆだね)の憧れの宿でした。ようやく訪れることができ、感動もひとしおです。
低山に囲まれた広大な敷地の中に佇む三養荘は喧騒とは無縁の静寂の中にあります。
三養荘のすぐそばには印象的な円形の建物、ラウンジ葵があり、こちらは新館を設計した近代建築家の巨匠、村野藤吾によるものです。
三養荘は1929年(昭和4年)に旧三菱財閥の創始者岩崎弥太郎氏の長男久彌氏の別邸として建造されました。見事な数寄屋造りの和風建築は、京都の庭師 小川治兵衛によってつくられた日本庭園の中に建てられ、現在も当時の建物が本館として残っています。
戦後に所有者が変わり、1947年(昭和22年)よりプリンスホテルが旅館「三養荘」として15室で開業。プリンスホテルグループの中の日本旅館として営業しています。
最初に案内していただいたのは、池を中心につくられた回遊式日本庭園です。3,000坪の広さがあり、良く手入れされた美しい庭園に圧倒されました。
ほとんどの客室が離れ風の造りになっており、広い日本庭園を囲むように42,000坪の敷地に配置されています。この広大な敷地の中に「本館」と「新館」があり、総客室36室。そのほとんどが平屋タイプの客室です。
庭園の中でも一番見晴らしの良い東屋のある高台にワクワクしながら駆け登り、その素晴らしい景色に大興奮。今までさまざまな日本庭園のある宿に訪れていますが、何だかスケール感が違います。岩崎家別邸の当時の雰囲気をそのまま残し、維持されているのはスゴイことだと思いました。
本館は南に玄関を構え、その右に「老松(おいまつ)」があります。茶室をはさんで、「木曽(きそ)」「巴(ともえ)」・「松風(まつかぜ)」が配置され、一番奥に1957年(昭和32年)に増築された「御幸(みゆき)」があります。本館は待合や露地門を含め、2017年(平成29年)6月28日に国の登録有形文化財に登録されました。
岩崎家の別邸として建造されて89年。旅館として71年間の月日を経て、こうした古い建築物が残っていて、しかも宿泊できる客室もあるとお伺いして感動する湯種でした。
この待合も国の登録有形文化財です。もちろん座ってみましたよ〜。
巨匠・村野藤吾設計の新館客室で源泉かけ流しを堪能
三養荘新館は1988年(昭和63年)に近代建築の巨匠、村野藤吾の設計によって誕生しました。桂離宮をイメージして設計された数寄屋造りの建築です。離れ形式の客室を巧みに廊下でつないだ造りをはじめ、照明や装飾など隅々までにさまざまな意匠が凝らされています。
新館ロビーはゆったりとした土間のある空間が広がっています。
土間から上がった廊下は畳敷きになっており、天井にも細やかな意匠が施されています。
村野藤吾が晩年に設計した新館は村野流の集大成と言われ、たとえば、ゆるやかな勾配の銅板の屋根が軽快に重なる姿は美しく、思わずため息ができます。
この繊細なカーブの継ぎ目に職人技が光ります。
新館の客室も村野藤吾設計によるもので、温泉付きの客室が中心になっています。案内していただいたのは「藤袴」の客室。デラックスタイプの和室で本間10畳、次の間8畳、化粧の間、広縁、温泉かけ流し内湯で構成されています。
広さは全部で83㎡ほどもあり、2間続きのゆったりとした和空間です。
数寄屋造りの客室は洗練された意匠が施され、シンプルながらも美学が感じられます。
広縁から見えるのは坪庭。こんな客室で庭を見ながらゆっくり過ごせたら、日常をしばし忘れてのんびりできそうです。
鏡台が置かれた化粧の間もあります。
また印象的だったのは客室内に畳廊下が設けられ、上を見上げると網代天井になっていたこと。本館玄関棟にも同様な意匠があり、それを取り入れた造りになっているようです。デラックス和室ならではの贅沢な空間だと思いました。
こちらは内風呂の脱衣所。洗面台も備えられ、広々とした空間にびっくりしました。
客室のお風呂は伊豆長岡温泉を利用しており、源泉かけ流しを楽しめます。浴室には伊豆石を使用。大きな窓を開ければ、半露天風呂風になります。
湯種は憧れの三養荘のお風呂に入ることができて、大感激。大きな窓からは心地よい風が吹いてきます。伊豆長岡温泉のやわらかなお湯に包まれて、うっとり。思わず「幸せ〜」を連発してしまいました。
長い廊下に自然豊かな「やすらぎ」の演出
本館の客室は「みゆき」をのぞき、客室専用のお風呂がありませんので、新館の大浴場を利用します。
大浴場へは新館の玄関からですと、長い廊下を歩いていくのですが、窓の外に小滝や流水、石垣などが配置され、自然豊かな景観が楽しめます。この見事な景観は廊下の距離を感じさせないためにつくられたもの。この廊下の途中には急に視界が開ける部分があり、特に紅葉の時期は一見の価値があるそうです。
廊下の大きな窓からはこんな川の流れを楽しめます。ちょうど清流にセグロセキレイという野鳥がやってきて、まさに花鳥風月。少し遠くに見える庭園には野生のキジが現れそうなロケーションです。風雅な演出に心を奪われる湯種でした。
三養荘の大浴場で内湯と露天風呂を堪能
黒御影石を使用した内湯は重厚な雰囲気を醸しながらも、ガラス張りになっており開放感があります。大きな窓からは露天風呂と庭園の緑が見えます。
露天風呂は内湯浴槽の一つの角に沿うような造りになっており、珍しいと思いました。
四季折々の眺めが楽しめる露天風呂は草木の香りが感じられ、とても風流です。取材当日は露天風呂からはツツジの花が見え、しばしお花見風呂を楽しみました。花の回りをアゲハがひらひら舞っていて、のどかでしたね。
今でこそ伊豆長岡温泉は古奈(こな)温泉と長岡温泉が合併し、集中管理方式で源泉を利用していますが、源氏山の東側は古奈地区と呼ばれています。古奈温泉は1,300年前に開湯したと言われ、修善寺温泉の独鈷の湯、伊豆山温泉の走り湯と並ぶ伊豆三古湯の一つ。そんなことを思い出しながら、サラリとしたお湯に浸かっていると肌にしっとりなじんできて「美肌の湯」を実感。泉質はアルカリ性単純温泉ですが、刺激の少ないやさしいお湯です。
内湯の洗い場には伊豆石が敷き詰められ、冬は保温効果もあるようです。
仕切りのついたシャワーブースもありました。こうした立って体を洗えるシャワーがあると、便利ですよね。
脱衣所はオーソドックスな雰囲気。少しレトロ感のある洗面台に角が丸い鏡や水道管にカバーが施されているのが印象に残りました。
大浴場の入浴時間は15時から朝の10時まで。露天風呂は安全管理のため、午前0時から午前6時までは入れないそうです。
館内には見どころがたくさん!
三養荘は日本庭園から見ると、それぞれの客室が独立した離れのように見えるのですが、館内では、そのほとんどが廊下でつながれているという凝った造りです。本館と新館も畳廊下で結ばれており、最初は巨大な迷路のように感じましたが、斬新な設計だと思います。館内は見どころがたくさんありますので、今回、印象に残ったところを紹介します。
こちらは本館玄関を入ったところです。重厚な雰囲気が漂い、三養荘の歴史がひしひしと伝わってきます。
印象的なふすまの孔雀の文様は三養荘のマークになっています。
本館の茶室も当時のまま。何ともいえない凛とした佇まいが素敵でこの空間は時間が止まっているように感じました。
本館のバー「狩野川」は1950年(昭和25年)、明治時代の東京市長(現在の東京都知事)を務めた後藤新平の田舎家を移築したものです。見事な天井の梁や柱の存在感に圧倒されました。こうした重厚な建築は当時の財界人たちの間で流行だったそうです。皮のソファーも良い感じに年季が入っていて歴史が感じられます。現在は宴会場や二次会の会場として利用されており、こんなところでグラス片手にお酒を楽しむことができたら、素敵だと思いました。
新館の大広間「雄峰」は128畳の広さがあり、宴会場や展示会などに利用されています。
「雄峰」の舞台壁面には人間国宝で截金(きりかね)作家の江里佐代子の作品を展示しています。純金箔を使って製作されており、その繊細な美しさに見入ってしまいました。本来こんな大きな作品を截金細工では製作しないものだそうですが、人間国宝の貴重な作品を三養荘で鑑賞することができて感激しました。美術が好きな方は必見です。
湯種もイチオシ!
期待を上回る素晴らしい宿でした!
三養荘に宿泊されるお客さまはアクティブシニアと言われる層が多いとのこと。外国人は宿泊客全体の1割ほどで、台湾や欧米などからツアーで訪れる方が多いそうです。
もともと和風旅館が好きな湯種は広大な敷地の中に建つ三養荘にはとても興味がありましたが、庶民には高嶺の花のようなイメージがあり、なかなか訪れる機会がありませんでした。
実際に取材で訪れてみて、期待を上回る素晴らしい庭園や数寄屋造りの建造物に感動! また意外とリーズナブルに宿泊できるプランがあることに驚くとともに日帰り入浴が可能なことも新しい発見でした。
日帰り入浴はラウンジ葵でのワンドリンク付きで1人2,000円。これはおトクですので、多くの方におすすめしたいと思います。
ラウンジ葵はクラシカルな雰囲気の洋風のレストルーム。ドーム状の屋根が印象的な建物ですが、室内も円形のデザインになっており、ゆったりとした空間が広がっています。
また、お風呂上がりにこのラウンジで飲んだ「手むきみかんジュース」がとても美味しかったのでレポートしたいと思います。静岡県産の温州みかんの皮をひとつひとつ手でむいて絞ったフレッシュジュースで、原材料はみかんのみ。みかん丸ごとの濃厚なコクが味わえました。
お土産に三養荘オリジナル商品「ハッピーベア」もおすすめです。熊がハッピを着て「ハッピーベア」。三養荘のスタッフの方の遊び心が感じられるアイテムです。湯種は館内に展示されているのを見て、その妙にほのぼのしている姿が気になってしょうがありませんでした。興味のある方はぜひチェックしてみてください。
今回は取材という短時間の滞在でしたが、次回三養荘を訪れるときは家族で泊まりに訪れ、この立派な庭園をゆっくり散策し、そして温泉ものんびり堪能したい思った湯種でした。
アクセスをチェック!
伊豆長岡駅からタクシーで約5分
伊豆長岡温泉の古奈地区に位置する三養荘の最寄り駅は伊豆箱根鉄道駿豆線「伊豆長岡駅」。伊豆長岡駅からタクシーで5分ほどの距離にあります。また、東海道新幹線の三島駅からはタクシーで30分位です。宿泊者は伊豆長岡駅から送迎も可能ですので、事前にお問合せください。
また、自転車は新館玄関(玄関の軒先)に駐輪していただくか、館内で預かってくださるそうです。こちらも予約時にお問合せを。
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