筥湯(はこゆ)
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木の香り漂う檜風呂と文学ゆかりの展望楼が見事
温泉街の中心で気軽に入れる共同浴場です
修善寺温泉をもっと楽しんでもらうために生まれた「筥湯」
静岡県伊豆市・修善寺の温泉街の中心部にある「筥湯(はこゆ)」は、江戸時代から続く温泉場の雰囲気を色濃く残す共同浴場です。もともとの「筥湯」は、目の前の川のたもとの「一石庵(いっせきあん)」のあたりにあったといわれており、温泉街の中心部にある現在の建物は2000年に新しくオープンしたものです。隣には、夏目漱石の漢詩にちなんだ展望楼「仰空楼」もあり、修善寺ならではの文学的な空気も味わえます。
伊豆箱根鉄道・修善寺駅からはタクシーで約6分。マイカーの場合は修善寺道路の修善寺インターチェンジから約5分とアクセス良好で、観光の合間に立ち寄りやすいのも特徴といえるでしょう。
こちらの魅力は、なんといっても木の香りに包まれた大きな檜風呂。この立派な湯舟を目当てに訪れるファンが多いところです。
それでは、「筥湯」についてご紹介していきましょう。
伊豆最古の温泉場として知られる「修善寺温泉」。もともとは7つの外湯があり、それぞれ賑わっていましたが、昭和の時代には「独鈷(とっこ)の湯」だけになってしまいました。井伊湯種は「独鈷の湯」に入浴したことがありますが、もうかなり昔のことです。その後、入浴はできなくなり、しばらくは足湯として利用されていましたが、現在は湯に触れることもできず、見学のみとなっています。そんな中、修善寺温泉の外湯をぜひ復活させてほしいという要望からオープンしたのが、この「筥湯」です。
浴室の中に入り、まず目につくのが古代檜の浴槽、そして見事な松の木造りの柱や梁で、浴槽や壁板からは、ほんのり檜の香りが漂います。
天窓があり、晴れた日には湯面に自然光が差し込みます。

井伊湯種(いいゆだね)も思わず天井を見上げてしまう木造施設
泉質はアルカリ性単純温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)。修善寺温泉事業協同組合で集中管理している混合泉です。アルカリ性の美肌の湯で、浴感は少しつるっとした印象。
続いて、女湯をご紹介しましょう。
明治の文豪・夏目漱石が詠んだ空の情景を追体験
温泉を楽しんだあとは、併設の「仰空楼」へ。
高さ12メートルの望楼からは修善寺の温泉街を一望でき、訪れたらぜひ登っておきたいスポットといえるでしょう。
「仰空楼」の名前は、夏目漱石の漢詩の情景にちなんで名付けられています。1910年、胃潰瘍に悩まされていた漱石は療養のため修善寺を訪れ、老舗旅館「菊屋」に宿泊しました。ここで大量に吐血し、生死の境をさまよったといわれていますが、奇跡的に一命をとりとめました。そして旅館の窓から秋の空を仰ぎ、この詩を詠みました。
仰臥人如唖(ぎょうがして ひとのごとく おし)
黙然看大空(もくねんとして たいくうをみる)
大空雲不動(たいくう くも うごかず)
終日杳相同(しゅうじつ ようとして あいおなじ)
“仰向けに寝たまま
静かに窓から広がる青空を眺めているが
ぽっかりと浮かぶ白い雲はほとんど動かない
終日向かい合ったままでまさに主客融合したような境地である”
「仰空楼」に入ると、漱石の詩が竹に書かれ、飾られています。靴を脱ぎ、階段を上がっていきましょう。
温泉街の屋根越しに、伊豆の山々や空が広がります。ここに立てば、漱石が見上げたあの「動かぬ空」を追体験することができるかもしれません。しばらくここでぼんやり修善寺の空を見上げ、明治の文豪の心境に思いを馳せてみてはいかがでしょう。
修善寺散策の途中に立ち寄れる、貴重な共同浴場
近くには「竹林の小径」や「修禅寺」といった人気スポットをはじめ、老舗旅館や土産物店が軒を連ね、門前町らしい情緒を感じられるロケーションです。
修善寺にはいくつかの共同浴場がありますが、ほとんどが地元会員専用のもの(ジモ泉)です。その中で「筥湯」は、誰でも利用できる唯一の共同浴場であり、修善寺温泉にとって特別な存在です。
今回の取材で、浴槽や洗面台のあたりを改装する予定と伺いました。新しい浴槽は石づくりになるそうで、それはまた違った入浴が楽しめそうです。完成したら、改めて訪れてみたいと思います。
みなさんも温泉街を散策するついでに、気軽に立ち寄ってみてはいかがでしょう。
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