天城湯ヶ島温泉 白壁荘
※経営が変わり名称が「天城湯ヶ島温泉 白壁」となっています。宿泊料金など詳細は公式HPをご参照ください。
天城湯ヶ島で文人墨客に愛された
民芸・民話をテーマにした老舗旅館
井上靖や木下順二らが毎年のように投宿
レトロな雰囲気に旅情が高まります!
今回、井伊湯種が訪れたのは天城湯ヶ島の旅館「白壁荘」。小説家・井上靖や「夕鶴」などで知られる劇作家・木下順二など、文人墨客に愛された湯宿です。旅館の外観は白壁やなまこ壁をあしらい、風情のある雰囲気。
館内に一歩踏み入れると、田舎に帰ってきた時のような懐かしい感じがしました。玄関には畳が敷かれ、民芸調のロビーは調度品もレトロです。
白壁荘の創業は昭和19年(1954年)。民芸・民話をテーマにした宿で、当時は今でいうところのデザイナーズ旅館の先がけだったといいます。創業以来、天城湯ヶ島の文化や文学を大切に守ってきました。
ロビーの囲炉裏端で冷たい緑茶とお茶菓子でもてなされ、ひと心地ついた後にお部屋に案内していただきました。中庭に面した風情のある廊下を渡っていきます。
全25室の客室は、民芸調をテーマにデザインされ、それぞれ間取りや趣きが異なるそうです。各部屋には「夕鶴」「寝太郎」「彦市」など、民芸や民話にちなんだ名前が付けられています。23室にお風呂がついており、露天風呂付きの客室が5室あります。お風呂付きの全ての部屋では源泉かけ流しの温泉が楽しめます。
私が宿泊したのは新館3階の紺屋(こうや)。江戸時代の職人の屋号から部屋名が付けられた部屋で、床の間の藍染めは全国各地に伝わっていた柄だそうです。間取りは12.5畳+4.5畳で、お風呂・トイレ付き。テーブルが設置されたリビングスペースもあります。とても落ち着ける雰囲気で、窓からは天城連山や中庭が眺められ、川のせせらぎが聞こえるお部屋でした。早朝は小鳥の鳴き声で目が覚め、爽やかな朝を迎えることができました。
「紺屋」の隣のお部屋は「壺屋」。10畳の和室で、床の間の壺は1984年、天城湯ヶ島町で初めて作られたものだそうです。
囲炉裏のある「あまんじゃく」は井上靖ゆかりの客室
人気の客室「あまんじゃく」は作家・井上靖が白壁荘に訪れた際に宿泊した部屋。囲炉裏のある、伝統工芸職人の技を大切にした民芸調の和室で、文学愛好家などに特に人気があるそうです。
井上靖はこの部屋で小説を執筆したり、先代のご主人とお酒を酌み交わすこともあったそうです。そんな部屋で過ごせば、文学ファンならずとも格別の旅情を感じることができるでしょう。
また、白壁荘は石川さゆりの名曲「天城越え」が生まれた宿としても知られています。1985年に作詞家の吉岡治、作曲家の弦哲也、作曲家・編曲家の桜庭伸幸が2泊し名曲が生まれたそうです。今も吉岡治直筆の歌詞や石川さゆりサイン入りのポスターなどが残っています。
一度は入りたい!日本一の巨石風呂と巨木風呂
白壁荘の温泉は古くから文人墨客に愛されてきました。泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉。弱アルカリ性の温泉です。ご主人の宇田さんによれば「神経衰弱によく効くと言われ、過酷な精神労働をする作家にとって疲れた心身を癒すには最高の温泉だったのでしょう」とのこと。
館内には日本一の大きさと言われる巨石露天風呂と巨木露天風呂があります。さらに大浴場(男女別)、貸切露天風呂「木こりの湯」があり、良質の天然温泉を満喫できます。お湯はやわらかく、疲れた体にジワジワ効いてくるような感じで気に入りました。カルシウム・ナトリウム―硫酸塩泉はお肌の保湿にも良く、美肌の湯とも言えるでしょう。
まずはその大きさに圧倒される巨石露天風呂(男女交代制)を紹介します。巨石のサイズは、なんと縦・約5.4メートル、横・約3.8メートル、厚さ・約1.5メートル、重さはなんと53トンもあります!
地中から掘り起こし、重さ53トンもある溶岩をくりぬいて作ったそうです。さらにその溶岩は1988年の旅館増築工事中に偶然見つかった巨石で、数十万年地下に埋れていたものと聞き、びっくりすると同時にロマンを感じました。
お湯は41℃ぐらいで心地良く、案内看板によれば、ワサビの葉っぱの部分のエキスも入っているそうです。ワサビの名産地の天城ならではですね。お湯はリウマチにも良いそうで、源泉を腕に直接、当てている方もお見かけしました。
巨木露天風呂(男女交代制)は、アフリカ大陸産・樹齢1200年位のブビンガ アフリカ紫檀をくりぬいて作られました。巨石露天風呂に劣らず、こちらもスゴイですね。遥かなるアフリカの巨木が日本で浴槽に変身するとは感慨深いです。お湯は温めでゆっくり入っていられる感じでした。
巨木・巨石露天風呂は7月~9月は100%源泉かけ流しで楽しめるそうです。源泉の温度が約46℃のため、温度調整が必要な時のみ加温しているのだとか。
大浴場「瑠璃の湯」は天城の山々と木漏れ日が差し込む男性専用の大浴場。少しレトロな雰囲気で、大きな窓からは木々の緑と狩野川が見えます。2つの浴槽があり、小鳥をモチーフにした湯口に、温泉成分が白く付着していて思わずニヤリ。こちらのお風呂は井上靖をはじめ、長期滞在して作品を書いていた川端康成、梶井基次郎などの文人も利用していたため、「文学の培養液」とも呼ばれていたそうです。お風呂のロケーションと湯遣いの良さから、同行した温泉ソムリエの佐藤ガチャ氏も絶賛!
女性専用の大浴場「大荒神」は、広々としていて半露天風呂付き。こちらも狩野川沿いにあり、川のせせらぎが聞こえてきます。
また、大浴場(男女)は、夏季は100%源泉かけ流しです。
家族やカップルにおすすめの貸切露天風呂「木こりの湯」は、4年前にオープン。15:00~23:00内で40分3,500円で利用できます。源泉かけ流しでとても気持ちの良いお風呂でした。温泉成分がスーッと身体に入ってくる感じで、まさに神経の疲れを癒してくれます。チェックイン後の予約制とのことで、事前の予約は行なっていないそうです。