箱根町仙石原 月の花 梟(あうる)
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宿のコンセプトは「自分たちが行くならこんな宿」。夜も更けたダイニングレストランでご主人に、宿の特色や料理のこと、接客のこだわりなどについてお伺いしました。
リピーターが6割以上 料理だけでなく会話を楽しむ
自然豊かな仙石原で、美味しい創作料理と客室で源泉かけ流しが楽しめ、しかも4室限定と静かに大人の時間が過ごせる「月の花 梟(あうる)」。そのためなのか、この宿ではリピーターが6割以上だそうです。まずは、ご主人の加藤さんに宿の特色をお伺いしました。
「食事が美味しいというだけでなく、楽しかったと言って帰られるお客さまが多いですね。50~70代のお客さまが全体の6割。リタイアして悠々自適の生活をされている方が多く、土曜日よりも平日にいらっしゃいます。また、私と女将と世間話をするのが楽しみで再訪してくださるお客さまは部屋食よりもダイニングレストランでの食事を希望されます。宿泊人数の関係でそれが叶わない時に、こちらから『夕食にダイニングレストランが使えないため、日程をずらしてみてはいかがでしょうか』とお電話することもあります。そうすると、日程をずらしてくださるんです。宿からお客さまにこんな電話をすることは一般的にはないですよね(笑)。これがウチの特色かもしれません」
お客さまとの信頼関係が伺えるエピソードですが、だからといってサービスにおいて、常連のお客さまを特別扱いはしないし、特別な料金設定(リピーター割引など)もしないそうです。それは「同じグレードの部屋に泊り、同じ食事を食べているのに、隣の人と料金が違うことを知った時にとても気分が悪かった」ということから。その分、毎日全力でサービスすることを心がけているそうです。
常連のお客さまのおかげで料理がスキルアップ!
6年間、毎月いらしたお客さまのお話も印象的でした。ご主人自ら腕をふるう創作料理ですが、毎回同じものを出すわけにはいきません。
「今は遠方に引っ越しをされてお越しいただけなくなったのですが、最初の半年は毎回、料理を変えていました。その後はリピートを許していただいて、2、3皿は新しい料理をお出しするようにしました。それでもとても大変なことでしたが、追いつめられてスキルが上がりました。今日お出しした『山芋のすり流し』も、その過程でできた料理の一つ。評判が良くて定番になりました。今から思えば、とんでもない料理も作ったし、すごく手間のかかる料理も作りましたね。料理は私が美味しいと思った料理しか出しませんが、その裏では失敗作も山のようにたくさんあるのです」
この仕事は好きじゃないとできない
接客のこだわりについてお伺いすると、
「接客は一番難しいですね。誤解を恐れずに言えば、基本的にはほったらかしの宿なんです。何かあれば連絡くださいという感じ。私が心がけているのはお客さまに気を使わせないように、気を使うこと。また、心にゆとりを持って、お客さまに気持ちよく対応できることを心がけています。スタッフは7人いますが、接客は私と女将が担当し、何を聞かれてもその場で完結するよう対応しています。私は、お客さまとはザックバランにお話ししたいですね。自分が宿に行ったら、その土地のことや料理の食材などについて知りたいと思いますから」
人と話すのが好きだというご主人。もともと法律関係の仕事をしていて、専門は相続だったといいます。各地に講演に出かけることも多かったとか。
「講演の際に年配の方とお話する機会が多かったので、これが今の仕事に活かされているのかも。また、昔の話になりますが、学校を卒業後、就職するまでの1年、車に釣りざおと米、飯盒を積んで、車で日本中を回ったことがあります。山の中で遭難しそうになりもしましたが、この時の経験が独立してからとても役に立ちました。人生、無駄なことは一つもないと思います」
自分だったら、どういうサービスを受けたいかを考え、お客さまにサービスを提供しているご主人。それが心地よくて、お客さまを魅了しているのだろうと思います。また、「この仕事は好きじゃないとできません。楽しいと思わないと続けられない。私が楽しければ、お客さまも楽しいと思います」という言葉が印象的でした。