金谷旅館 伊豆下田河内温泉
一度は入りたい、日本最大級の総檜造りの千人風呂
名物風呂とレトロな日本建築を堪能できる、金谷旅館宿泊レポート!
下田市河内(こうち)に位置し、「千人風呂(せんにんぶろ)」で知られる金谷旅館(かなやりょかん)に湯友の湯達入郎(ゆったりはいろう)氏と訪ねました。最寄駅は伊豆急下田駅の一つ手前の蓮台寺駅。駅のすぐそばを稲生沢川が流れ、山あいの長閑な風景が広がります。
蓮台寺駅から4分ほど歩くと、金谷旅館に到着しました。金谷旅館の創業は江戸時代末期、慶応3年(1867年)。金谷山を背景に緑豊かな2,000坪の敷地の中に佇む老舗の湯宿です。
我々を出迎えてくれたのは女将の今井伊豆美さん。湯達氏はこの宿に30年以上も通っている常連で、女将とも旧知の仲です。今回の宿泊取材も湯達氏のとりなしで実現しました。
私、井伊湯種(いいゆだね)は、金谷旅館に日帰り入浴で訪れたことは10回以上ありますが、宿泊は今回が初めてです。昭和4年に建てられたという本館はレトロ。湯種の大好きな昭和の香りが濃厚に漂っていて、胸が高鳴ります!
玄関脇の水槽の中には大きな鯉がいて、気持ち良さそうに泳いでいました。また館内のいたるところに絵画が趣味という女将の作品が展示され、個人ギャラリーのようでした。
思わず泳ぎたくなる男性用大浴場「千人風呂」は混浴もOK
レトロな廊下を奥へ進んで右側に千人風呂の入口があります。
金谷旅館といえばなんといっても有名なのが「千人風呂」。大正4年、「伊豆の名物となるようなお風呂を」という想いから生まれました。平成14年に全て檜造りの大浴場に改修され、長さ約15m、幅約5mの巨大な湯船は、木造の大浴場としては国内最大級の規模を誇ります。木の温もりが感じられる広々とした空間に、めいっぱい広がった湯船は圧巻。湯船の中央には女体ブロンズ像三体が飾られ、独特なムードを醸し出しています。
湯船の深さは1mほどの部分もあり、ほかのお客さまの迷惑にならない範囲なら、実際に泳ぐことも可能。この開放感がたまりません。
また、千人風呂は男性用の大浴場ですが、混浴も可能のため、女性は婦人脱衣室より出入りができるようになっています。水着はNGですが、湯浴み着着用やバスタオルを巻いて入れますので、女性の方もぜひ千人風呂を体験してみてください。寒い季節は浴室内が湯気でモウモウとなりますので、より混浴の敷居が低くなると思われます。
30年位前に金谷旅館が初めて紹介された小さな雑誌記事を読んで、すぐに訪れたという湯達氏。「千人風呂はそれまでは無名の存在だったけれど、それから次第に金谷旅館の名物風呂として 知られるようになりました。昔の女湯にはハート形の湯船もありましたよ」と常連客ならではのコメントです。
金谷旅館では金谷山の麓に自家源泉を2本所有し、豊富な湧出量を誇ります。源泉の温度は48.3℃と36℃。千人風呂をはじめ、女性専用大浴場「万葉の湯」、男女別の露天風呂、貸切風呂「一銭湯(いっせんゆ)」といったすべての湯船で100%源泉かけ流しを楽しむことができます。また、先代のご主人が温泉を10年間かけて掘り当てた時のお話は心に残りました(その詳細はこちらへ)
泉質は弱アルカリ性単純温泉です。複数ある湯口からドバドバと惜しげもなく源泉が湯船に注ぎ込まれる様子は見ていて気持ち良いほど。やさしい肌ざわりのお湯は疲れた身体を癒し、とてもリラックスできます。
千人風呂ではお湯の温度は場所によって異なり、熱めからぬる湯まで4段階位の温度の違いが楽しめるので、温泉好きにはたまりません。特に左奥の湯船の温度が最も低く、ぬる湯好きの人はいつまでも入っていられます。
千人風呂から続く男性用露天風呂への入口は湯船の中(一番右端)にあり、夜だと少しわかりにくいかもしれません。
木戸を開けると、露天風呂に続く木の階段があり、数段上って行きます。その先にはこじんまりとした露天風呂があり、打たせ湯や気泡風呂を楽しめます。広い景色を望むことはできませんが、通り抜ける風が清々しく、夜は星空も眺めることもできます。お湯も温めで心地よく、湯種は以前、この露天風呂のふちで寝てしまったことがありました。
今回、夕方に露天風呂を訪れた時はご家族と思われる女性グループがタオル巻きで湯浴みを楽しんでいました。混浴とわかっていても女性に遭遇するとドキッとしてしまいますね。
4種類の湯温が楽しめる女性専用大浴場「万葉の湯」
女性専用大浴場「万葉の湯」は伝統的な建築様式を用いた木造りのお風呂。千人風呂に比べれば7割ほどのサイズになりますが、千人風呂と同様に泳げる広さと深さがあります。風情があり、天井の梁や柱が見事で素晴らしいと思いました。
湯船は4つに区切られ、それぞれ湯温が異なりますので、自分の好みの温度を探すのも楽しいと思います。
こちらは万葉の湯の脱衣所。ここにも女将の作品が飾られていました。貴重品は鍵付きロッカーに入れることができます。
女性用脱衣所から千人風呂に行くことができます。その際には「千人風呂入口」にぶらさがっている鍵を持って行くことをお忘れなく。千人風呂内のドアは自動施錠のため、鍵がないと女性用脱衣所に戻れなくなってしまいます。
こちらは千人風呂入口のドアを開けたところ。足元ぐらいまでお湯が入っています。鍵を使って左側の扉を開けると千人風呂に行けます。
扉の先が千人風呂です。
こちらは千人風呂内にある女性脱衣所へのドア。出入りができるのは鍵を持った女性のみです。つまり、男性は鍵がない限り、女湯に行けないようになっています。女性の不安を少しでも取り除くように考えられているようです。
万葉の湯から続く女性専用露天風呂では、打たせ湯と気泡風呂を楽しむことができます。
日中は日帰り温泉利用客で賑わっていることが多い金谷旅館の大浴場ですが、夜の遅めの時間帯はゆっくり入れます。夕食後、ひと眠りしたあとに千人風呂に行ったら、うれしいことに貸切状態でした。誰もいない夜の大浴場も神秘的で素敵ですよ〜。
貸切風呂「一銭湯」は宿泊者専用
千人風呂を堪能した後は宿泊者専用の貸切風呂「一銭湯」へ。玄関に隣接した別棟に貸切風呂が2つあり、利用の際にはフロントに声をかけ、鍵をかけて入ります。このお風呂が金谷旅館では最も古く、明治末頃に一銭箱に一銭を入れて利用されていたことから名が付いたそうです。
在の「一銭湯」は、昭和62年に屋根だけ残して改装し、当時の雰囲気を再現しました。湯船は3つに区切られ、竹の湯口から自家源泉がたっぷりと注がれています。それぞれ湯温が異なり、湯口側から熱め・適温・温めのお湯を楽しめるようになっており、こうした配慮も温泉マニア心をくすぐります。特に温めのお湯は38℃位でぬる湯好きの湯種好みでした。浴室のレトロ感も素敵ですし、金谷旅館に宿泊の際は絶対入ってほしいお風呂です。
お風呂上がり後は自動販売機前の休憩処や入浴客の待合室「松風の間」でくつろぐことができます。
今回、我々は宿泊ですので、入浴後は自分の部屋に戻り、冷たいビールを飲みました。「今日は帰らなくても良い」「滞在中好きなときに温泉三昧ができる」というのが宿泊の醍醐味。次は金谷旅館の客室について紹介しましょう。
昭和初期に建造された客室でレトロ感を楽しむ
金谷旅館は2,000坪の敷地の中に客室は11室。本館の純和室8室に、別館の洋室3室があります。
今回、我々が宿泊した本館2階「松の間」は玄関から入って中央の欅の階段を上ったところにあり、上質な木材を使って昭和4年に建造されたもの。天城産の杉の巨木や秋田産神代杉などが使われ、温かみがありながら格調高い空間になっています。建造当時、これから外国人客が増えることを想定し、通常より4寸(約12cm)ほど高い襖や障子、一尺(約30cm)も高い天井など、先の時代を見越した仕様にしたそうです。
二間続きの広々とした和室でゆったりとくつろげるのはもちろん、天井や柱、障子などに当時の職人の技が感じられ、古い建築が醸し出すレトロな雰囲気を満喫できます。
客室に置かれたお湯も自家源泉!
客室に置かれたポットのお湯や冷水はすべて源泉が入っていると聞いてびっくり。客室のお湯や水にまで自家源泉を利用している宿は、珍しいです。さすが湯量豊富な自家源泉を所有しているだけありますね。源泉はクセのないまろやかな味わいで、源泉で淹れた緑茶も美味しかったです。
また、部屋のテーブルに「絵を描き、紙袋を作りました。よろしかったらお使いになってください」というメッセージとともに女将の絵の入った紙袋が置かれていたことも印象的でした。
バレエスタジオや天文台もあります
別館は本館玄関から外に出て30mほど離れたところにあり、洋室3室とバレエスタジオなどがあります。洋室は温泉シャワー、バス、トイレ付きでベッドが4台入る、ゆったりとした空間です。女将の趣味の延長でつくられたバレエスタジオはバレエ合宿をはじめ、ピアノもあるので音楽合宿にも利用されています。
敷地内には月や星を眺められる天文台もあり、28㎝反射望遠鏡や10㎝屈折望遠鏡を備えています。湯種は月を見せていただきました。興味のある方はフロントに声をかけてみてください。スタッフの手が空いているときは案内してくれますよ~。