金谷旅館 伊豆下田河内温泉
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自家源泉の1本は先代が10年かけて掘り当てたもの
温泉が出る前に地下200mから美しい石が
ガラガラと上がってきました
金谷旅館の女将、今井伊豆美さんに金谷旅館の歴史や温泉などについてお伺いました。お話を伺ったのは休憩処の松風の間。円窓が印象的な風情のある部屋で、隣接した庭からウグイスやホトトギスなど、野鳥の鳴き声が聞こえてきます。
金谷旅館の創業は慶応3年(1867年)。江戸時代末期の創業から150年になります。
「私の祖母から聞いたのですが、以前は金谷楼と呼ばれていたそうです。旅館名は裏山の金谷山から名付けられ、養蚕と旅館業を兼業した時代もありました。かつては金谷山に金谷旅館の看板が掲げられ、伊豆急行線の電車から見えたんですよ」と女将の今井伊豆美さん。
金谷旅館は自家源泉を金谷山の麓に2本所有し、豊富な湧出量を誇っている湯宿。名物の千人風呂は「泳げるほどの大きさでどこにもないお風呂をつくりかった」という思いから大正4年に建造され、平成14年に総檜造りのお風呂に改修され、現在に至ります。
「金谷山の麓で私の父が温泉を堀り当てたのは私が小学生の頃。所有していた源泉の温度が低くなってしまったことから温泉を掘る勉強を始め、掘削機械を用いて自力で掘り当てました。私は学校から帰宅後、温泉を掘る父のところにサイダーやかりんとうなどのおやつを届けに行っていました。とても印象的だったのは温泉が出る前に深さ200mの穴からガラガラと石が上がってきたこと。それがきれいな石で子供ながらに心に残りました。そのあとに熱い温泉が出て、そのときの父の表情が少年のように輝いていたのを今でも覚えています。その石を館内の展示スペースに飾っていますので、興味のある方はご覧になってください」
誰もいない千人風呂のひそかな楽しみ方
金谷旅館の千人風呂は男性用大浴場ですが、混浴も可。女性はバスタオル巻きや湯浴み着を着用して利用できます。
「大きな木造りの女性専用風呂の万葉風呂もありますが、金谷旅館に来られた際には、ぜひ千人風呂にも入ってほしいですね」と女将。
女将自身もお客さまがいない時間に千人風呂に入るといいます。女将は旅館業のほか、絵画やピアノ、社交ダンス、バレエ、声楽(オペラ)などにも力を入れている芸術家肌。
「誰もいない千人風呂でシューベルトのアヴェ・マリアを練習したことがあります。千人風呂で歌うと湯気でのどが潤い、高い天井にも反響して1.3倍位上手く聞こえるのです。大きな浴室で歌うのはすごく気持ちが良かったですね」
田舎に帰ってきた気分でリラックスしてほしい
金谷旅館のモットーは「田舎に帰ってきたときのようなリラクゼーション」。宿でゆっくり過ごし、忙しい日常で疲れた心身を癒してほしいというのが願い。
「接客についてはお客さまの要望にはお応えしますが、私自身が自然派のため、心地の良い空気感を大切にしています。自然と空気が動いている感じが一番心地良いような気がして。こうした空気感を好ましいと思ってくれる方がリピーターになってくださることが多いようです。“今日はおばちゃん、いるの?”と、当館の従業員に声をかけてくださるお客さまもいらっしゃいますし、本当にありがたいことだと思います」
実際、湯友の湯達入郎氏はもう30年以上の常連客。千人風呂の素晴らしさだけでなく、宿の持つ空気感と相性が良くて通っているそうです。気取らない宿の雰囲気も魅力的だと思った湯種でした。