水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた

客室、温泉、食事、接客に込めた思い
「この場所でどう過ごしてもらうか」を大切にする宿づくり

1泊では味わいきれない、湯ヶ島での滞在

宿の立地や客室づくり、温泉、食事への思いについて、「水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた」社長の山田大介さんにお話を伺いました。

山田さんは、祖父の代から続く宿の3代目。
もともとは「たつた旅館」という名前で、2009年に現在の「水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた」という名称になったそうです。
山田さんは大学卒業後、すぐに旅館へ入ったわけではなく、一度は異業種で働いた経験があります。
「宿を継ぐことは、自分の中では決まっていました。
ただ、最初から旅館に入ったわけではなく、大学卒業後は一度、電気店で働きました。
修行というより、ほかの業種を経験したかったという思いがありました。
その後、26歳の時に戻ってきました」

「水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた」代表取締役 山田大介さん

「水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた」代表取締役 山田大介さん

次に伺ったのは、湯ヶ島という場所で、宿としてどのような滞在を提案しているのかということです。

「こんな奥まで来てくださる方は、観光だけが目的というより、宿を目当てに来られる方が多いんです。
わざわざ来ていただくからこそ、お客さまの期待には沿えるようにしたいと思っています」

山田さんが大切にしているのは、観光地として何かを無理につくるのではなく、湯ヶ島で過ごす時間そのものを楽しんでもらうこと。

「観光地のように無理に何かをつくるよりも、湯ヶ島は湯ヶ島のままでいいと思っています。
都会の方、特に若い方にとっては、田舎の里山のような風景そのものが新鮮に映ることもあります」

その考えは、これからの宿づくりにもつながっています。
山田さんが目指しているのは、「住むように旅行する」滞在です。

「1泊2日では、どうしても短いんです。15時にチェックインして、翌朝10時にチェックアウトするだけでは、のんびり味わえる時間が少ない。
朝のゆったりした感じも、十分には楽しめません。
だから、できれば連泊して、少しでも長く滞在していただきたいという思いがあります」

その思いの背景には、山田さん自身の旅行体験があるそうです。
「自分自身も旅行が好きで、特に妻が沖縄好きなので、よく沖縄へ行きます。
沖縄では2泊でも足りないくらいなのに、旅館は1泊で満足されてしまうことが多い。
そこに違和感がありました」

ただ泊まって食事をして帰るだけではなく、滞在そのものを楽しめる宿へ。
そんな思いから、カフェスペースづくりや、宿を起点に周辺へ出かけられる仕組みも考えたそうです。

「宿でゆっくりする時間もあり、少し足を伸ばして遊びに行く時間もある。
その両方があって、初めて湯ヶ島を全部味わえるのではないかと思っています」

インタビューに使わせていただいた、館内のロビー横にあるギャラリーのようなスペース

インタビューに使わせていただいた、館内のロビー横にあるギャラリーのようなスペース。実はこの場所は、もともと客室だったそうです

どんなお客さまのご利用が多いのかについても伺いました。

ご夫婦やカップルのお客さまが中心で、40〜50代の方が多い印象とのこと。
休日には若い方も増え、最近は海外からのお客さまも目立つようになっているそうです。

「多い時には、海外からのお客さまが50%ほどになることもあります。
この周辺ではかなり多い方だと思います。
川床があることも大きいですが、湯ヶ島たつたの自然を求めて来られる方が多いようです」

海外からのお客さまが増えた背景には、行政によるアジア圏に向けたインフルエンサー施策や、旅行サイトへの対応など、早くからの準備もあったそうです。

インタビューに使わせていただいた、館内のロビー横にあるギャラリーのようなスペース

改装の際に壁を取り、ロビーとつなげて、今のようにお客さまがゆっくり座って話したり、古い道具やポスターを見たりできるギャラリーのような空間にしたとのこと

続いて、客室づくりについて伺いました。

「お部屋ごとにコンセプトがあります。
川も緑も楽しめるお部屋もあれば、川の景色を前面に押し出したお部屋もあります。
それぞれ景色の楽しみ方が違います」

客室づくりで一番大切にしているのは、「どんなに飾っても、窓の外の景色には勝てない」ということ。
「どんなにいいものを部屋に置いても、窓を開けた瞬間に外の景色には負けてしまう。
だから、客室はできるだけシンプルにしています」

今回宿泊した露天風呂付き客室「竹の音」と「川の音」も、まさにその言葉のとおり。
室内は落ち着いた設えで、窓の外の景色をゆっくり楽しめる空間になっていました。

また、広い客室にあえて物を置きすぎないことにも、山田さんの考えがあります。
「田舎は、1人あたりの空間が広いんです。
広い部屋だから人を詰め込むのではなく、あくまで1人ひとりのスペースをゆったり取る。
そこでも田舎らしさを表現しています」

もともとは団体旅行向けの宿だった「湯ヶ島たつた」。
時代のニーズが団体旅行から個人旅行へと変わる中で、建物の見せ方や伝え方を変え、今の滞在スタイルに合わせてきたそうです。

ギャラリースペース

ギャラリースペースには、古い道具やポスターなどが飾られています

ギャラリースペース

飾られているレトロな品々は、購入したものではなく、もともと宿にあったものだそうです

温泉についても伺いました。

「見た目に大きな特徴があるお湯ではありません。
海のそばの温泉のように塩味があるわけでもなく、見たは普通のお風呂とあまり変わりません。
ただ、柔らかさと保温性は違います」

お客さまからは、「長く入ってしまった」「何度も入ってしまった」という声が多いそうです。
大浴場、貸切風呂、客室のお風呂まで、すべて源泉かけ流し。
源泉は3つあり、基本的にはそれらを混合した湯を各浴槽に使っています。
ただし、貸切風呂のうち「かぐやの湯」と「森のこみち」には、ほかの源泉と混ざりあわない単独の源泉を使っているとのこと。
でも、その違いが分かる方はかなり少ないそうです。

「1年に1人いるかいないかくらいです。
温度の違いではなく、『なんとなく浴感が違う』と感じられる方がたまにいらっしゃいます」

温泉好きとしては、これはぜひ確かめてみたくなるところ。
井伊湯種(いいゆだね)も、次に訪れる時は貸切風呂をじっくり巡って、違いを感じられるか試してみたいと思いました。

貸切風呂づくりで意識しているのは、同じものを1つもつくらないこと。
「大きさも、造りも、景色も全部違います。
川を見せる、山を見せる、竹を見せる、空を見せる。
見せられる景色が多いので、それぞれ違う切り取り方をしています。
お湯そのものは変えられませんが、雰囲気は変えることができます」

「たつた旅館」時代に使われていた時計

「たつた旅館」時代に使われていた時計

食事については、川床料理ならではの工夫を伺いました。
「川のそばで食べる料理なので、景色に負けない、あるいは景色を引き立たせる料理を意識しています」

「川床」では料理がすぐに冷めてしまうため、夕食も朝食も、その場で熱を入れる料理を多くしているそうです。
夕食のわさび鍋や、席の近くで揚げていただく天ぷら。
朝食の目の前で焼く干物も、「川床」で美味しく味わうための工夫なのだと分かりました。

ロビーから望む外の景色

ロビーから望む外の景色

接客で大切にしていることも伺いました。

山田さんがスタッフに伝えているのは、「自然体であれ」ということ。
「こういう話し方をしなさい、こういう言い方をしなさい、というマニュアルはあまりありません。
ここは田舎の宿です。田舎のおばあちゃんやおばちゃんたちは、かしこまりすぎた話し方はしません。
もう少しフランクで、でも思いやりのある話し方をします。
そういう自然体の接客を大事にしています」

一方で、ただ自然体であればよいということではありません。

「スタッフに必ず伝えているのは、『接客は心ではなく技だ』ということです。
自分の気持ちではなく、相手にどう伝えるか。
その技術を使って接客をする必要があります」

自分らしく、肩肘を張らずに接客する。
けれど、その奥にはきちんとした考え方と技術がある。
自然体の心地よさと、宿としてのおもてなしの姿勢。
その両方があるからこそ、「湯ヶ島たつた」の滞在は肩の力を抜いて過ごせるのだと感じました。

山田さんのお話からは、客室、温泉、食事、接客の一つひとつに、「この場所でどう過ごしてもらうか」という考えが通っていることが伝わってきました。
「水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた」は、観光を詰め込むのではなく、滞在そのものをゆっくり味わいたくなる宿だと思いました。

インタビューの様子

宿への想いが伝わってくるインタビューになりました

ギャラリースペース

ギャラリースペースはフリードリンクを楽しみながら、宿の歩んできた時間や「田舎」の空気感に浸るための場所となっています

→次は「水のみち 風のみち 湯ヶ島たつた」の見どころ情報です!